ブラックボックス と #Me Too
この本を読んで、あなたにも想像してほしい。いつ、どこで、私に起こったことが、あなたに、あるいはあなたの大切な人に降りかかってくるか、誰にも予測はできないのだ。
伊藤詩織著「ブラックボックス」(文藝春秋社/2017)の「はじめに」に書かれた言葉です。
ブラックボックス
ジャーナリストである伊藤さんが、就職の相談で会った元TBS記者山口氏にレイプされた事件について、被害者自身がその経過や事後の加害者とのやりとり、警察・検察の動きなどを自らも取材してレポート=告発しています。安倍首相に近いと言われる元記者に対して用意された逮捕状は執行されることなく、直前で逮捕は取りやめとなった。検察の判断も不起訴処分となり、検察審査会に申し立てを行ったことを受けて、伊藤さんは2016年5月、顔を出して記者会見を行いました。マスコミも取り上げたので、この会見について覚えていらっしゃる方も多いと思います。その後、検察審査会が「不起訴相当」の結論を出しました。彼女は、性犯罪のブラックボックスに光をあてるために出版を決意したのです。
性犯罪を裁くまでの厚い壁
本書では、事件の経過とともに日本の性犯罪が親告罪であること、準強姦罪の立証・立件にいくつもの壁があり被害者にとって大変な苦痛を伴うものであることを、自らの心情と重ねて書き出しています。政治的な背景は別にしても、日本の性犯罪に対応する法整備や行政対応は遅れていると、北欧の例などをひいて指摘しています。スウェーデンでの取材で、365日24時間レイプ被害にあった人を受け入れる「レイプ緊急センター」をもつ総合病院のプライバシーを守る設備上の配慮や検査や治療、カウンセリングを受けられる体制ができていることを紹介しています。日本でもこうした組織・体制づくり、デートレイプドラッグの検査体制の整備が必要であると訴えています。
法改正で一歩前進
昨年7月に施行された改正刑法により、(準)強姦罪は「(準)強制性交罪」となり、親告がなくても公訴でき、これまで被害対象は女性に限られていたものが男性への犯罪行為も対象となりました。長年の関係者の努力の成果です。
関連犯罪は増加傾向
1月18日警察庁が発表した2017年の刑法犯件数(速報値)は、全体で91万5千件で前年比8.1%減で戦後最少記録を更新したそうです。しかし、強制性交等は12.3%増で1111件でした。この数字も氷山の一角かもしれません。
これまで表に出にくい性犯罪でしたが、相談・告発がしやすい制度や社会づくり、人々の意識を変えていく必要があります。そのためにも起こった事実を知り向き合う努力が私たちにも求められていると思います。
#Me Too
職場の忘年会でセクハラにあい、上司に訴えたが、加害者からの謝罪や処罰がないばかりか、訴えた当初は上層部から『そういう事実は確認できませんでした』と、まるでこちらがうそをついているかのように言われた。
朝日新聞のフォーラム「『#METOO』どう考える?」のデジタルアンケートに寄せられた40代女性の声です。
昨年アメリカ・ハリウッドで有名プロデューサーによるセクハラを女性たちが告発したこときっかけに、「MeToo(私も)」と次々に告発が起きました。SNSで拡散するため#(ハッシュタグ)をつけて発信したことから全世界に広がるムーブメントとなりました。日本でも、こうした動きが広まっています。これらは、社会的意識を変えていくことにつながっていくかもしれません。
こうしたセクハラや性犯罪を起こさない、起こさせないためには、互いを人間として尊重し合う人間性を持つことと、社会の規範を作っていくことが大事だと思います。
さいごに、伊藤さんからのメッセージをご紹介します。
「今まで想像もできなかった苦しみを知り、また想像以上に多くの人の心の中に存在していることを知った。同じ体験をした方、目の前で苦しむ大切な人を支えている方に、あなたは一人ではないと伝えたい」 (あとがきから)
障害者雇用促進法の改正実施について −2018労働行政の話題(2)-
前回、2018年の労働行政の話題としていくつか紹介しましたが、補足情報です。
4月から障害者雇用率が引き上げられます
本日(2018年1月10日)の日経新聞に「精神障害者の雇用義務化、企業の48%『知らない』」の記事がありました。障害者雇用促進法により企業や行政団体には一定比率の障害者雇用が義務付けられています。民間企業では、現在雇用率2%となっています。つまり従業員50人のうち1人は障害者を雇用し、雇用できないのであれば障害者雇用納付金を負担しなさいという制度です。
この障害者雇用率が法改正(平成25年)によって今年の4月から2.2%に、来年(2019年)4月からは2.3%に引き上げられます。
精神障害者も雇用義務の対象に
この引き上げと合わせて対象となる障害者について変更があります。これまでは身体障害者と知的障害者を対象としていましたが、新たに精神障害者もその対象となります。精神障害者は、統合失調症、気分障害などを含みます。企業で採用する際に、身体障害者・知的障害者と精神障害者を合わせて障害者雇用率を満たしていればよい、ということになります。
平成25年改正の内容
また、同じ改正で「障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務」、「苦情処理・紛争解決援助について」も明示されました。募集採用・賃金、教育訓練や福利厚生状の差別の禁止。障害者が働きやすい環境整備への配慮を求めています。また、労働者から苦情の申し出があった際には自主的に解決できるよう相談体制の整備も求めています。
■平成25年改正の内容(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000121387.pdf
ダイバーシティ経営の視点から
多様な働き方を認めることでよりクリエイティブな仕事、業績をめざすダイバーシティ経営を志向する企業も増えています。今いちど御社の雇用、障害者雇用のあり方を見直してみてはいかがでしょう。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/entry/pdf/h27betten.pdf
2018年の労働行政の話題
新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
2018年1月
オフィス赤木 赤木一成
さて、2018年は労働行政にとって大きな変化とその準備の年になりそうです。今年予定されている労働法・労働行政にかかわる大きな話題についてご紹介します。
有期契約から無期契約への転換
2013年4月に施行された改正労働契約法で定められた無期転換ルールがありますが、この4月にその権利が発生する5年を迎えます。それまで契約更新を繰り返し通算5年以上雇用された人が無期契約への転換を希望すれば企業は無期雇用に転換しなければならなくなります。非正規労働者の雇用安定をめざす趣旨ですが、企業によっては「雇用安定のため積極的に転換する」or「契約更新の上限を設け、雇用の流動性を確保する」など対応は分かれそうです。就業規則や契約関係書類の変更など実務上の整備も必要となりますので、まだ準備できていない会社は急ぎましょう。
正規社員が定年を迎え再雇用となり5年を超えた場合に無期転換の例外を認める特例措置もあります。これについては、労働局に対して「第二種計画認定・変更申請」が必要となります。
⬇️ 詳しくは、厚労省無期転換サイトをご覧ください。
派遣労働者の雇用安定化ルール
改正労働者派遣法の施行から3年が経過する9月30日以降に適用されるルールです。有期雇用の派遣社員が同じ職場で働ける期間を3年とし、同じ部署への派遣期間が3年を超えると原則、派遣先企業での直接雇用への切り替えなどが必要になります。適用が厳格化しますので、派遣を受け入れて3年目に入った派遣労働者がいる場合は、その人を自社で雇用するのか派遣契約をやめるのか判断が迫られます。しっかりと仕事ぶりを評価して、早めに判断をしてください。
働き方改革関連法案
昨年の3月に政府が決定した「働き方改革実行計画」に示された労働基準法など関連法案の審議は、昨年の総選挙があったため新年に持ち越されました。直近の通常国会で審議される見通しです。その内容について、昨年9月の労働政策審議会は「おおむね妥当」という答申を出しています。
主な内容は
①長時間労働対策として、残業時間に年720時間などの上限を厳しくし、違反した場合には企業に罰則もあります。
②仕事が同じなら賃金も同じにする「同一労働同一賃金」を法制化します。
③労働時間でなく成果に対し賃金を払う「脱時間給」制度を創設します。国会では、脱時間給を巡り、野党の中には「残業代ゼロ法案」だとして反発する声があり審議の争点となりそうです。
これら関連法案は、当初は2019年4月施行の予定でしたが、審議がずれたため後にずれる可能性はあります。いずれにしても大きな法改正として進められていきます。
⬇️「働き方改革実行計画」の概要はこちらをご覧ください。
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf
最低賃金の引き上げ、春闘の動向
最低賃金については、働き方改革実行計画の中でも「毎年3%」程度の引き上げ目標を掲げています。昨年も全国加重平均で25円の引き上げとなりました。今年も同水準の引き上げが予想されます。また、戦後最長の好景気に迫る景気回復基調とデフレ脱却を図る政策推進を受けて、今年の春闘は「3%賃上げ」が目安となりそうです。政府からも、労働界からもそうした意見が出ており、経済界も前向きに対応するようです。さて、賃上げが消費につながり物価を押し上げることにつながるかどうか……。
そのほかの労働行政課題
この他にも、次のような課題があり、関連する行政、経済界、労働界での動きが活発化しそうです。詳細は別途ご紹介していきます。
女性活躍推進・両立支援
長時間労働対策、「過労死ゼロ」緊急対策
テレワークの指針決定
兼業・副業の解禁、転職促進の指針づくり
人生100年時代の働き方、リカレント教育
自分のキャリアを自分で設計〜セルフキャリアドック制度の推進
などなど。
このリーディングは生き方を変える 〜Life Shit を読んでみよう
「わたし、この本に書いてあることはすでに実践しているわ。途中までだけど読んで見て、そのことが正しかったと思えたの。」
とあるリーディングセミナーでカラービジネスコンサルタントが仕事という女性Tさんは、自己紹介でそう言った。なんとも自信に満ちた態度で、圧倒されそうだ。
LIFE SHIT を読む
今回のセミナーで取り上げた本は、
「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略-」
(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著 池村千秋訳
/東洋経済新報社)
400ページにおよぶ専門書だ。
本を読むのは好きだが、遅読の私には、こうした本は苦手である。大概途中で嫌になって放り出すか、とてつもない時間をかけて読むので途中で内容を忘れてしまう。この本一冊読む時間があれば、池井戸潤の作品なら5冊は読めたのに、と後悔することになる。
それでも読んでみようと思ったのは、あちこちの書店に平積みされていて新聞の書評にも度々取り上げられたのを知っていたからだ。もう一つの理由は、来年60歳を迎えることで、第2の人生を意識し始めた、これから残された人生をどう生きたらよいか、などと珍しくまじめに考え始めてきたからだ。
そんな時、フェイスブックでこの本を取り上げたリーディングセミナーのイベント告知が流れてきた。
とあるリーディングセミナー
京町家の8畳ほどの和室に集まってきたのは、6人。キャリアカウンセラー、研修講師、カラービジネスコンサルタント、起業家、私、それにセミナーファシリテーター。テーブルの上には京銘菓や飴が置かれ、リラックスした雰囲気だ。女性が多かったこともあってワイワイと雑談から始まった、ゆるい感じ。
「まず本をざっと見て、目次や中の見出しを見て、中身に入り込むと時間がかかりますかね。ざっとでいいですよ」
えっ、本を読まないの? 眺めるだけ? それで大丈夫なの? とたくさんの疑問符が湧いてきた。このリーディング法は初めてという人ばかりだったので、皆ちょっと不思議そうな顔をしていたが、とにかくやってみた。分厚い本を開き、ペラペラしたり、覗き込んだり。
著者に質問を出す
「そして、この著者に質問を出しましょう。カード1枚に1問、3つの質問を考えてください」
「人生に戦略なんているんですか?」
これがキャリアカウンセラー・Iさんから著者への質問だった。
みんなの質問を紹介しあった後で、各自、その質問の答えとなるキィワードを本の中から探す。この時間がこのセミナーの中ではもっとも長い時間だったが、それでも30分もしない。しかし、皆集中して答え探しをしている。
「長生きするってことは、それだけお金も必要ですね、当たり前だけど。収入のことも考えなくては。なんとなく生きている訳に行かないですね。だから積極的な戦略が必要なんだと気づきました」とIさん。
「リ・クリエーション」という言葉
「人生100年時代というが、85歳まで働くとして、そこまで健康が維持できるのだろうか?」 これは私の問い。
このテーマで本をあちこち開いてみると、次のようなキィワードが出てきた。
健康である期間は長くなる
健康改善のイノベーションが起こる
バランスのとれた生活
脳は鍛えられる
そしてあちこちに出てくる次の言葉も関連するキィワードだと思う。
レクレーションではなく、リ・クリエーション(自己再生)
自己再生の友人関係
うーむ、「リ・クリエーション」か。なんだか心地よい言葉だ。
「この本に書かれていることを実践しています。男女の役割チェンジのことが書かれているけれど、わたしはすでに準備しているんです。夫には定年後は好きなことをしてもらう。これまで働きづめでしたいことができなかったのだから。わたしが稼ぐ、というつもりで準備してきて、起業しました。今、わたしは働くことが楽しくて仕方がない。LIFE SHIFT してますよ〜!」
Tさんは相変わらず明るく元気な感想を述べた。聞いていたみんなも元気をもらった。
雑談さえも学びの場に
セミナー後の雑談時間、ワイワイと和やかにいろんなお話をした。
実はこの雑談の時間もこのリーディングセミナーの貴重な要素なのだそうだ。一つの本をみんなで読んで、出されたキィワードや意見の違いを知ることによって、本の理解がさらに深まる。その読後感を持ってさらに雑談する中で、互いに持っている想いやリソースの交流をすることで満足感が高まるのだ。
「それでは、最後に今日のリーディングを受けて、明日から何を始めるのか、お一人ずつ発表してください」
手応えを感じたのか、ファシリテーターの表情も明るい。
私は、この本を最後まで読み通すこと、これからも自分への教育投資を継続すること、そして本を読む前に「問い」を立てることを決意表明した。
人生100年時代はもう始まっている
本当に密度の濃い3時間半で、「余生」への考えが前向きになった。
人生100年時代、この本から得た知識と今日の経験を我が身に生かそう、楽しもうと思った。そうなると、これからますます忙しい。ボケているヒマなんてなさそうだ。
本は対話するように読むのが良い。できればリーディング仲間とともに。
このリーディングは、人生を変えるかもしれない。
リンク
●リード・フォー・アクション
●LIFE SHIFT
https://store.toyokeizai.net/books/9784492533871/
仕事のムダをなくす 改革の目のつけどころ
「年末年始はゆっくり休んで
仕事のモチベーション向上を図る」
飲食、小売業界で正月休業の動きが広がる中、大和ハウス工業が11月下旬、2018年の正月三が日の住宅展示場および分譲住宅での営業を取りやめ、一斉休業することを発表した。 (2014.12.4. niftyニュース)
広がる営業・サービス見直しの動き
前回の記事「行き過ぎたサービスは、働き方改革のブレーキになる?!」でファミリーレストラン「ロイヤル」やコンビニエンスストアの営業日・営業時間の見直しが始まっていると紹介しました。ダイワハウス工業の正月三が日休業は、こうした動きの一つで、ソフトバンクなどサービス業にも広がっています。
働き方改革を進めて、厳しい採用情勢の下で大学生などの求職者に「働きやすい職場ですよ」とアピールする狙いもあるでしょう。しかし、実際に需要の少ない日、時間の休業は、経営の効率化にもなり、休むことで従業員の休息、モチベーションアップにつながることは間違いないでしょう。
商品やサービスを見直す 本当にそこまで必要なの?
みなさんは、自社や他社の商品・サービスで「ここまでしないといけないのか?」と疑問に思ったことはないでしょうか。
ヤマト運輸が引き受け荷物の削減に取り組み、職員の昼食時間の確保や長時間労働をなくすため配達時間帯を見直したのはつい最近の話です。私もネットショッピングなどでヤマトさんにはお世話になっていますが、時間枠の変更でなにか不都合があったかというと、何もありませんでした。むしろこちらもその時間は安心してランチがとれるようになりました。(笑)
ビジネスホテルなどでトイレットペーパーの「最後まで使い切ることのご理解のお願い」と言った表示は、今では当たり前になりました。以前は、ロールの厚さが半分くらいになったら新しいものと取り替えていました。労力もコストもムダになっていたものを見直し、顧客に理解・協力を求めました。中には不満を持ったからもあるかもしれませんが、多くの宿泊客に違和感はなかったのではないでしょうか。
競合関係もあるので、サービスの見直しにはバランスは必要ですが、顧客の理解や協力が得られないかを吟味し、可能な部分は思い切って変更します。
会議・意思決定〜そもそも必要な会議か?
「約30,000時間・・・あなたが一生涯で会議に費やす時間だ。
この途方も無い時間、想像してみたことはあるだろうか?1日10時間活動できるとして、365日休みなく働いたら約8年分になる。大事なことなのでもう一度言う、"貴重な人生の時間を、8年分も会議に捧げる"ことになる。」
「世界でいちばんやさしい会議の教科書」(日経BP社2015年)の著者・榊巻亮さんは、自身のブログの中でこう指摘し、改革を呼びかけています。
あなたの会は、会議に年間で何時間を使っていますか?
会議や意思決定について見直し、大胆に改革しましょう。
1、意思決定のルールを作る
・経費の決済や企画、プロジェクトの実施、商品開発、取引先の決定など分野ごと、
段階ごとに決済基準を決める。
・基準を明確に、手続きを簡素化しする。
・ルール決定の際に、仕事の分担と合わせて権限委譲が進みやすいように工夫する。
2、会議を変える
・まず「その会議は本当に必要なのか?」と一つ一つ見直す
会議ごとの目的をはっきりさせて、必要がない場合は廃止してみましょう。
・必要な会議の運営を見直す。
前出の榊巻さんは「7つの基本動作」として下記を提唱しています。
①決まったこと、やるべきことを確認する
②会議の終了条件を確認する
③時間配分を確認する
④主張を引き出す
⑤対話を促す
⑥議論を可視化する
⑦4つのPを押さえて会議をシミュレーションする
時間、議題、出席対象者は適切か? 提出する資料の量と質や完成度は行き過ぎていないか? 最近では、「会議は立ってする」「資料はA4で1枚に限る」「出席者を絞る」と言った改革を断行して成果を挙げている企業がどんどん出てきています。社内会議資料の完成度を高める時間があれば、お客様への提案資料の充実に時間を割いた方が効率的ですよね。
3、コミュニケーションの仕方を変える
浮いた会議の時間を有効に使って、上司・マネージャーは部下とのコミュニケーションを充実させていきましょう。「報・連・相」が重要と言いますが、必要以上に細かく報告させたり、相談に来ないと怒っているのも時間の無駄です。部下の仕事の状況をみながら、上司からタイミングよく声をかけていけば効率的なコミュニケーションが取れると思います。こうした関係づくりは、ハラスメントやメンタルヘルス不全の防止にもつながっていきます。
仕事の進め方・作業を改革する
前回ご紹介した同志社大学・太田肇さんの「ムダな仕事の多い職場」の中では、ホワイトカラー職場の「カイゼン」は形式化して返ってムダのもとになっていると指摘しています。ムダをなくし生産性を上げるためには、改善ではなく改革が必要だと主張しています。
AIやIoT(全てがネットにつながる技術)を活用した大胆な作業改革、組織のありかた、マネジメント手法の改革も必要でしょう。
GUや一部のスーパーではセルフレジが導入され、広がりを見せています。私もGUセルフレジを利用したましたが、商品を所定の台に置くだけで計算ができ精算終了、大変便利です。セルフレジへの誘導と操作説明をする一人の職員が4〜5台のレジを担当していました。ファーストリティリングはこの方式をユニクロにも広げていく方針です。またフレスコなど一部スーパーでは、精算部分だけが無人化されています。1台の有人レジに3台の精算機がついていますので、レジ通過スピードが早くなっています。感覚ですが、これまでの1.5倍くらいのスピードではないでしょうか? 自動精算機なので、閉店後の精算作業も効率化され、誤差も出ません。こうした最新技術を駆使した効率化は加速度的に進むでしょう。
こうした最新技術の導入だけでなく、作業一つ一つを見直し、だれでも理解できるマニュアルに整備する、といった基本的なこともムダを省く近道です。
さあ、あなたの会社・職場を見直してみましょう。
行き過ぎたサービスは、働き方改革のブレーキになる?!
「つくばエクスプレス(TX)を運行する会社が、電車を定刻より20秒早く出発させたとして謝った。 海外メディアは『遅れでも運休でもないのに……』と驚く。『20秒』の差は謝るべきなのか。」
過剰に謝る企業文化
2017年11月21日の朝日新聞「ニュースQ3」の記事です。11月のある日、TXでは南流山駅発の普通列車が定刻9時44分40秒のところ、9時44分20秒に発車してしまったそうです。この会社に限らず、乗客には発車時刻については「分」までしか知らされていません。それなのになぜ? このことが英語のネットニュースで流れ、海外で話題になっているという。朝日は同じ記事で、「ニューヨークの地下鉄なら謝罪のためだけに職員が必要だ」とtwitterで話題なり、更に英ガーディアン紙でも取り上げられたと紹介しています。また、九州工業大学・佐藤直樹名誉教授のコメントを交えて、日本の「過剰に謝る企業文化」について問題提起をしています。
みなさんどう思われますか?
悪質クレームに泣く現場
同じ日の朝日「天声人語」では、労組UAゼンセンが行った流通や小売で働く労組員からのアンケートを紹介、客からの悪質なクレームとその対応をめぐって深刻な現実が報告されています。「お前はバカか」「死ね、やめろ」といった暴言や、3時間に及ぶ説教、そして土下座を求める行為などです。これに対して従業員は、「謝り続けた」「何もできなかった」と答えた人が4割を超えたそうです。天声人語は、「そのうちカスタマー(顧客)ハラスメントやコンシューマー(消費者)ハラスメントも定着するかもしれぬ。」と警鐘を鳴らしています。おもてなしの国、世界一のサービスの日本だが、「最高のサービスの裏に最低の客が隠れているのではないか」(石田衣良)と疑問を投げかけています。
過剰サービスは改革の障害に
さて、こうした行き過ぎたサービスや謝罪が、働き方改革の障害になっているとの指摘があります。そう主張しているのは同志社大学政策学部教授・太田肇さんです。実は先日(朝日の記事の前の日)、太田さんの講演を聴く機会があり、TXの対応のことも紹介されていました。
「仕事をいかに効率化するかー『働き方改革』成功の条件—」と題する太田さんの講演要旨は次のようなものです。
(講演資料から)
・働き方改革の本丸は長時間労働の是正、カギは生産性の向上
・成功の条件とは〜社員のモチベーションアップ/仕事の効率化(ムダの排除)
・日本の労働時間は減少している?〜正規社員限定すると先進国中突出して長い。
年休消化率も海外の70%以上と比べて、日本48%と低い
・日本の生産性は、OECD加盟国18位と低迷
・日本の職場に多いムダ〜過剰なサービス/無意味な「完璧主義」/カイゼン型アプローチの限界
・とくにオフィスにムダが多い〜事務系の生産性が低い/非効率な会議と複雑な意思決定/分厚い管理職 層と進まない権限委譲/マイクロマネジメント
・効率化のカギは?〜競争圧力、労働市場の圧力の不足/積極的な「外圧」の活用/中小企業の実践をモ デルに
この内容は、10月に出版された「ムダな仕事が多い職場」(ちくま新書)に詳しいので、参照してください。「なるほどそうだ!」と思える点が随所に書かれていて、大変参考になります。
始まった、企業の取り組み
企業の生産性改善の取り組みも進み始めました。長引く深刻な人手不足もあって加速しています。
11月28日付日本経済新聞はシリーズ「危機を好機に−生産性考—」の中で、「週3日休む旅館 非製造業こそチャンス」として神奈川県の老舗旅館の取り組みを紹介しています。旅館ホテルは無休が当然、と思われがちですが、鶴巻温泉の「陣屋」はあえて週3日休業し、職員研修や休日に当て、サービスの質を上げることで売り上げを伸ばし、従業員の賃金も大幅にアップさせたそうです。
報道によれば福岡市に本社を置くファミリーレストランチェーンのロイヤルは、元旦を始め年間3日間のいっせい閉店日を設定すると発表し、既存店の95%は同じ日に閉店することになりました。コンビニエンスストアやスーパーでも365日24日営業を見直す動きが出ています。
長時間労働をなくす仕組みと意識改革と合わせて、生産性を上げる(仕事のムダをなくす)取り組みが「真の働き方改革」の推進力となります。
では、どのように取り組めば良いでしょうか?
次回、この点を考えていきます。
働き方改革 政府、「残業税」の導入を決める?!
「サービス残業は脱税になります」
労働基準法では、一日8時間または1週間40時間を法定労働時間と定めており、これを超える労働については割増賃金を払わなければならない。この割増された賃金の2割が、時間外労働勢として、労使折半で国に納められる。
えっ! 割増賃金から税金を払うの? 会社だけでなく労働者も!
ご安心ください。小説「残業税」(小前亮著、光文社文庫)の一節です。作品では、残業税を払わないために様々な違法な残業隠しや虚偽申告をする企業に対して、実態を暴き税の徴収をするため国税庁に「時間外労働税調査官」、通称「マルザ」が設置される。マルザは、各地の労働基準監督官と組んで、悪質企業の巧妙な残業隠しを暴いていく。多くはブラック企業であるが、税金を払う余裕のない零細な企業の場合もあり、関係者からは反発を受けることもある。様々な妨害や挫折を乗り越え、法の正義のために今日も戦っていく・・・。そんなお話です。
この物語の中で「残業税が導入されて世の中のあり方が大きく変わった」とされています。こうした税金制度でも入れないと、企業は本気にならないのではないか、というメッセージなのかもしれません。
現実の日本では、働き方改革の具体案として「時間外労働の上限規制」や「年次有給休暇の取得義務付け」などの規制と、労働時間に拘束されない働き方として「高度プロフェッショナル制度」を認める労働基準法の改正案が準備されていました。本来は9月下旬に召集された臨時国会で審議されるはずでしたが、ご存知のように解散総選挙があったため廃案となりました。
選挙の結果、解散前とほぼ同じ与党体制となったので、改めて同様の法案が審議されることになります。国会は年内は実質審議をしない、という観測もありますので、年明けからの審議スタートとなります。この法改正は当初2019年4月施行を予定していましたが、ずれ込む可能性もあります。こうした労働政策においては、日本は先進国の中でも特に遅れていますが、さらに遅れていきそうです。法改正をまたず、民間での実のある働き方改革が求められている、とも言えそうです。
他の国の政策はどうか? ドイツの取り組みを紹介している記事がありました。
ドイツでは、「1日10時間以上働いてはいけない」という法律があり、違反すると企業は罰金を課せられる、しかもそのほとんどは「働かせた上司」が負担しているということです。これではたまりませんから、上司(管理職)はこまめに部下の労働時間を把握して、残業しないように指導したり役割分担を調整したりするということです。おそらくこの段階に来るためには相当の年数がかかったものと思いますが、行政、企業、管理職、そして労働者が同じ目標を掲げて取り組んだから実現できたものと思います。
ちなみにドイツの労働生産性は、日本を約50%も上回っており、好景気が続いています。
日本もこうした事例を参考にしながら法制度の整備を進めてほしいものです。また、長時間労働の解消と生産性の向上を両立させるための企業と従業員の努力・工夫、仕組みづくりも不可欠です。現状を分析し、課題を明確にし改革の方向性と対策を打ち立てて取り組んで行くことが企業とその現場に求められています。