行き過ぎたサービスは、働き方改革のブレーキになる?!
「つくばエクスプレス(TX)を運行する会社が、電車を定刻より20秒早く出発させたとして謝った。 海外メディアは『遅れでも運休でもないのに……』と驚く。『20秒』の差は謝るべきなのか。」
過剰に謝る企業文化
2017年11月21日の朝日新聞「ニュースQ3」の記事です。11月のある日、TXでは南流山駅発の普通列車が定刻9時44分40秒のところ、9時44分20秒に発車してしまったそうです。この会社に限らず、乗客には発車時刻については「分」までしか知らされていません。それなのになぜ? このことが英語のネットニュースで流れ、海外で話題になっているという。朝日は同じ記事で、「ニューヨークの地下鉄なら謝罪のためだけに職員が必要だ」とtwitterで話題なり、更に英ガーディアン紙でも取り上げられたと紹介しています。また、九州工業大学・佐藤直樹名誉教授のコメントを交えて、日本の「過剰に謝る企業文化」について問題提起をしています。
みなさんどう思われますか?
悪質クレームに泣く現場
同じ日の朝日「天声人語」では、労組UAゼンセンが行った流通や小売で働く労組員からのアンケートを紹介、客からの悪質なクレームとその対応をめぐって深刻な現実が報告されています。「お前はバカか」「死ね、やめろ」といった暴言や、3時間に及ぶ説教、そして土下座を求める行為などです。これに対して従業員は、「謝り続けた」「何もできなかった」と答えた人が4割を超えたそうです。天声人語は、「そのうちカスタマー(顧客)ハラスメントやコンシューマー(消費者)ハラスメントも定着するかもしれぬ。」と警鐘を鳴らしています。おもてなしの国、世界一のサービスの日本だが、「最高のサービスの裏に最低の客が隠れているのではないか」(石田衣良)と疑問を投げかけています。
過剰サービスは改革の障害に
さて、こうした行き過ぎたサービスや謝罪が、働き方改革の障害になっているとの指摘があります。そう主張しているのは同志社大学政策学部教授・太田肇さんです。実は先日(朝日の記事の前の日)、太田さんの講演を聴く機会があり、TXの対応のことも紹介されていました。
「仕事をいかに効率化するかー『働き方改革』成功の条件—」と題する太田さんの講演要旨は次のようなものです。
(講演資料から)
・働き方改革の本丸は長時間労働の是正、カギは生産性の向上
・成功の条件とは〜社員のモチベーションアップ/仕事の効率化(ムダの排除)
・日本の労働時間は減少している?〜正規社員限定すると先進国中突出して長い。
年休消化率も海外の70%以上と比べて、日本48%と低い
・日本の生産性は、OECD加盟国18位と低迷
・日本の職場に多いムダ〜過剰なサービス/無意味な「完璧主義」/カイゼン型アプローチの限界
・とくにオフィスにムダが多い〜事務系の生産性が低い/非効率な会議と複雑な意思決定/分厚い管理職 層と進まない権限委譲/マイクロマネジメント
・効率化のカギは?〜競争圧力、労働市場の圧力の不足/積極的な「外圧」の活用/中小企業の実践をモ デルに
この内容は、10月に出版された「ムダな仕事が多い職場」(ちくま新書)に詳しいので、参照してください。「なるほどそうだ!」と思える点が随所に書かれていて、大変参考になります。
始まった、企業の取り組み
企業の生産性改善の取り組みも進み始めました。長引く深刻な人手不足もあって加速しています。
11月28日付日本経済新聞はシリーズ「危機を好機に−生産性考—」の中で、「週3日休む旅館 非製造業こそチャンス」として神奈川県の老舗旅館の取り組みを紹介しています。旅館ホテルは無休が当然、と思われがちですが、鶴巻温泉の「陣屋」はあえて週3日休業し、職員研修や休日に当て、サービスの質を上げることで売り上げを伸ばし、従業員の賃金も大幅にアップさせたそうです。
報道によれば福岡市に本社を置くファミリーレストランチェーンのロイヤルは、元旦を始め年間3日間のいっせい閉店日を設定すると発表し、既存店の95%は同じ日に閉店することになりました。コンビニエンスストアやスーパーでも365日24日営業を見直す動きが出ています。
長時間労働をなくす仕組みと意識改革と合わせて、生産性を上げる(仕事のムダをなくす)取り組みが「真の働き方改革」の推進力となります。
では、どのように取り組めば良いでしょうか?
次回、この点を考えていきます。