4月完全施行 パワハラ防止法
パワハラ防止法解説 その2 事業主の雇用管理上の措置
パワハラ防止法では、事業主にパワハラが起きないよう相談体制の整備など雇用管理上必要な措置を義務付けています。厚労省が定めた指針では、具体的に下記の点を挙げています。
①事業主のパワハラ防止方針等の明確化およびその周知・啓発
②苦情などを含む相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③パワハラが発生してしまった後の迅速かつ適切な対応
④上記①〜③と併せて講ずべき措置
それぞれの措置の内容と対応ポイントは以下のようなものです。
■事業主の方針等の明確化および周知・啓発
①パワハラを禁止する方針の明確化とその周知・啓発
・「ハラスメントは許しません!」というトップのメッセージを作成・公表する。
・管理監督者を含め従業員に周知する。啓発活動に取り組む。
②パワハラ発生時の対処方針や内容について規定し、その周知・啓発
・就業規則、ハラスメント防止規程や服務規律を改定し、パワハラを行ったものにつ いては、厳正に対処する旨を明確に示す。
※すでにセクハラ、マタハラ防止の規定整備とともに設定済みの企業も多いと思いますが、再確認です。
・そのことを社内報、パンフレット、ポスター等を使って従業員に周知する。
・従業員研修・講習でハラスメントについての理解、防止のための知識を広める。
(ポイント)
・研修は、管理職向けと社員向けとは内容を分ける方がよいでしょう。
研修内容の例
対象者 |
主な研修内容 |
全社員 |
ハラスメントとは/どういう言動がハラスメントにあたるか/会社の方針・規則の説明/ハラスメント防止のために |
管理職 |
全社員向け研修内容に加えて ハラスメントの企業への影響/ハラスメント防止管理職の役割/ハラスメントにならない指導法/アンガーマネジメント |
相談窓口担当者 |
ハラスメントの定義/事業主の雇用管理措置の内容/相談担当者の役割と業務/相談者への対応(演習含む)/行為者へのヒアリング(演習含む) |
・周知・啓発にあたっては、防止効果を高めるため、パワハラの原因と背景について理解を深めることが大切です。
■苦情を含む相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談窓口の設置、相談担当者を任命する。
・相談窓口を労働者に周知する。
・相談担当者が相談に対して適切に対応できるよう、相談やヒアリングなどの対応についての留意点をまとめたマニュアルの整備し、継続した学習・研修の実施する。
(ポイント)
・窓口は、従業員が相談しやすい体制とするため、複数(できれば3人以上)の担当者を配置しましょう。
・相談担当者が社長や管理職だと相談しにくいということもありますので、職位・階層が異なるメンバーで構成する方がよいでしょう。男女の比率なども考慮しましょう。
・パワハラだけではなく、セクハラやマタハラ、その他の相談を幅広く受けるようにしましょう。それぞれのハラスメントは複合して発生することも多いので。
・担当者の変更があった際や年度替りなどに、その都度相談担当者名、相談方法・連絡先などを知らせていきましょう。
・社内では十分な体制が取れない場合は、外部相談窓口の設置も有効です。顧問社労士、ハラスメント研修・相談対応を専門とする会社など(いずれも有料となります)
※この場合も、外部で受けた相談に対して誰がどのように対応するのかという社内体制の整備は必要です。
・相談の受付方法についても、対面、電話、メール、オンラインなど複数の方法を設けておきましょう。
■ハラスメント発生時の事後の迅速な措置・対応
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること
(ポイント)
・相談者からの相談されたことの事実関係の確認が第一です。曖昧にしたり放置すると大きな問題となります。迅速にヒアリング、事実確認を行なってください。また、思い込みや推測による事実認定をすると、判断を間違う可能性がありますので、正確に押さえていくことが大事です。
・相談された内容については、いつ、どこで、誰が、どのように、どんなことを行ったのか(5W1H)を整理します。また、相談者(被害者)がその言動でどのような影響をうけたのか、また行為者や企業に対してどのような対応を望んでいるのかを聞き取ります。
・行為者へのヒアリングでは、最初から「加害者」と決めつけないことも大切です。ヒアリングをするというだけで、時に感情的に反発されることもあるので、冷静に話を聞ける環境や状況の準備をすること、担当者を選定する際も配慮が必要になります。
・事実関係を確認する上で、第三者(行為事実があった時に同席していたい人、同じ部署の人など)へのヒアリングを実施することが有効な場合もあります。
②ハラスメントと判断した場合
・被害者に対する配慮のための措置を迅速・適正に行う。
措置 例 |
・行為者の関係改善に向けての援助 ・被害者と行為者を引き離す配置転換 ・行為者の謝罪 ・被害者の労働条件上の不利益の回復 ・メンタルヘルス不調者へ相談対応、治療支援 |
・行為者(加害者)に対しては、必要に応じて部署異動などの措置と就業規則による懲戒等の処分を行う。
措置 例 |
・必要な懲戒その他措置 ・被害者との関係改善に向けた援助 ・被害者と行為者を引き離す配置転換 ・行為者の謝罪 |
③再発防止、周知・啓発
・あらためて職場におけるハラスメントに関する方針を知らせる。
・相談のあった事例の再発を防ぐため、留意すべき事項などを知らせる。
(ポイント)
・個人が特定・推測されないよう、直接的な事例紹介は避けましょう。
・この再発防止、周知・啓発は、相談事案がハラスメントと判断できなかった場合も実施します。
■上記3つの措置と併せて講ずべき措置
①プライバシーの保護に必要な措置
・相談や事後の対応に際し、相談者はもちろん行為者やヒアリングに応じた第三者などのプライバシーが守られること。
・プライバシーには、性的指向・性自認や病歴などセンシティブな個人情報も含まれます。
②不利益扱いの禁止
・相談したこと、ヒアリングに応じたことを理由として、解雇その他不利益取扱をしないこと。
・不利益扱いそのものは、パワハラ判断の内容に関わらず不法行為となります。
明るい職場応援団
厚生労働省ハラスメント防止推進Webサイト「明るい職場応援団」には、使える情報が満載です。今回ご紹介した事業主の雇用管理措置について、「指針」や「パワーハラスメント対策導入マニュアル」が参考になります。また、研修に使える動画もアップされています。活用してください。
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
ハラスメントのない職場づくりは活気のある職場づくり
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の全面実施に合わせて、事業主の講ずべき雇用管理措置について解説しました。法律改正に伴う措置ということですが、ハラスメントのない職場づくりにはより大きな目的があります。パワハラ、セクハラ、マタハラや職場でのいじめ・差別は、働く人の労働意欲を削ぎ、チームの力を落とします。誰もが意見や質問を気兼ねなく出せて、安心して働ける職場は、生産性が高く成果を上げているという研究結果があります。(Google 「プロジェクト・アリストテレス」)そうした心理的安全性のある職場を作っていくことで、企業の業績も上がっていくという相関関係があると思います。その出発点ととらえて、ハラスメント防止の体制作りを進めていただくと良いと思います。今回の記事がそのヒントになれば幸いです。
ハラスメント防止体制づくり・研修実施のご相談先
オフィス赤木
赤木一成(21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント、
e-mail : k.akagi@jobsupport.jp
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