定年後の再雇用 大幅な賃金ダウンは不法行為に
今日3月31日で定年となり、来週から再雇用され引き続き仕事を頑張る、という方も多いのではないでしょうか。そうした定年を迎えた方にとっても、事業主にとっても気になるニュースが入ってきました。高年齢者の継続雇用制度をめぐる司法判断についてみてみましょう。
「九州惣菜事件」判決が確定
定年後雇用継続制度により再雇用となる際に、業務量の減少を理由に大幅な収入減となるのは許されるのかを争った「九州惣菜事件」の福岡高裁判決(2017年9月7日)が確定しました。最高裁が、3月1日に原告の上告を退けたため、30日に判決が確定したものです。
産経新聞 Web3月30日
朝日新聞 Web 3月30日
この裁判では、九州惣菜の元正社員だった女性が60歳で定年となり再雇用を希望した際に、会社側が提示した労働条件が「月収で4分の1」と大幅な減少となることを不服として再雇用契約を結ばず、「定年前の8割の賃金」での地位確認と再雇用の機会を侵害したことへの逸失利益・慰謝料を求めて訴訟を起こしたものです。
提示された労働条件
会社から提示された労働条件は、次のようなものでした。女性の定年前の月額賃金を時給になおすと1944円でしたが、再雇用条件短時間契約となり時給900円と半分以下となっていました。しかも、会社は業績不振を理由に契約時間の短縮を求めました。これにより、女性の月収ベースでみると定年前の4分の1にまで減額となってしまうというものでした。
一審、二審の概要
福岡地裁小倉支部の一審判決(2016年10月27日)は、業務の範囲は定年前より限定されており、時給900円は他のパート社員と比べても不合理はない、として原告の訴えを棄却しました。
これに対して福岡高裁の二審では、業務量が減ることで短時間勤務契約となる提案は理解できるが、月収が「75%も減少」することを正当化する合理性は認められないと判断しました。受け入れ難い条件で不法行為であるとして慰謝料の支払いを命じました。逸失利益については、雇用契約が成立しなかったことから認めませんでした。
高年齢雇用確保措置の趣旨
今回の判決の根拠となっているのは、高年齢者雇用安定法で、第9条で事業主に高年齢者雇用確保措置をとるように義務付けています。これに基づいて企業は継続雇用制度を導入し、希望する労働者を継続雇用しなければなりません。今回の判決では、この継続雇用制度の趣旨について次のように解釈しています。
- 極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示するのは、継続雇用制度の趣旨に反した違法性がある。
- 当該労働者が、継続雇用制度の合理的運用によって65歳まで安定して雇用されるという法的保護による利益を侵害する不法行為である。
- 継続雇用制度は、定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されるべきである。
- 上記の例外的な労働条件が提示されるためには、合理的な理由が必要である。本件はそのような合理的理由を認められない。
厚労省高年齢雇用確保措置Q&A
継続雇用にあたっての留意点
上記のように、再雇用後の労働条件を定めるには、労働条件の継続性・連続性について留意する必要があります。再雇用だから、これまでとまったく違う職務を与え、そのことによって給与を大幅に引き下げる、ということもできません。(トヨタ自動車ほか事件/名古屋高裁2016年9月28日)
したがって、職務や役割を変える/業務量・労働時間を減らす/雇用形態について事前協議をする/月収ベースで極端な減額とならないよう給与水準を確認する、といった点を押さえた条件づくりが求められます。定年となるまでに十分に時間をとって、本人の希望を聞き、条件を提示して話し合って決めるといことが大切だと思います。
WinWinの雇用条件でベテランのモチベーションアップを
再雇用にあたって、業務内容についても一定の継続性を持たせ、知識・経験を生かした働き方をしてもらうことが、経営にとっても有効になると思います。人手不足が叫ばれる中、まだまだ元気な高年齢労働者のモチベーションをアップさせて、業績向上や後進の指導・教育に役割を果たしてもらうことは、企業の将来にとっても価値ある積極策といえるのではないでしょうか。
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