「日本一幸せな従業員を作る」って、どういうこと?
「このホテルにぜひ泊まってみたい!」
今は叶わないことだけど、映画を観て思ったことでした。
大阪での自主上映会で観たその映画は「日本一幸せな従業員を作る〜ホテルアソシア名古屋ターミナルの挑戦〜」でした。30人ほどの小規模な上映会でしたが、おそらく全員がどこかのシーンで涙したと思います。映画の後の懇親会でも、「どこで泣いたのか泣き所が人によって違うね〜」と盛り上がったくらいに、泣かせどころ満載の映画でした。
ホテル経営再建方針
ホテルアソシア名古屋ターミナル(以下、アソシアと言います)は、1974年創業で名古屋駅北側に隣接するホテルでしたが、再開発により2010年9月で閉館しました。映画は閉館する前の10年間にこのホテルに起こった奇跡を、ドキュメンタリーとして描いています。
2000年、アソシアは4年連続で赤字となり、資本金を上回る累積欠損を計上していました。そこに、柴田秋雄さんがゼネラルマネージャー(総支配人。以下、GMと言います)として着任します。柴田さんは国鉄、JR東海で労働組合役員経験した人で、いわば畑違いの登用でした。経営再建を任された柴田さんが経営再建にあたって目標としたのは「従業員を幸せにする」だったのです。
従業員を幸せにする取り組み
彼が最初にとりかかったのは、人員整理やコストカットではなく、社員食堂の改善でした。社員食堂の板前さんたちととことん話し、大きなヒノキのまな板と包丁をプレゼント。「これで従業員たちにうまいもんを食べさせてやってほしい!」と頼み込んだそうです。そして椅子テーブルを新しいものに取り替えました。出される料理が美味しくなり、綺麗になった社員食堂に従業員が集まってくるようになったのです。そこで仕事の話をしたり、コミュニケーションがとれるようになってくると、職場に笑顔が戻ってきました。
これをきっかけに従業員に対する様々な働きかけ(人材への投資)を行なっていきます。
・全従業員を東京の一流ホテルの見学に行かせる
・「生きることは?」などをテーマにした研修会の継続実施
・パート、アルバイトを含む全従業員を対象とした表彰制度をスタート
・一人ひとりへの感謝状は手書きで書く
・毎年末に従業員の家族を招待する感謝の会を開く
・従業員全員の誕生日には一流の料理を出し、GM自ら一緒にご飯を食べる
などなど
従業員の変化と顧客の支持
こうした取り組みを通じて従業員も変化していきます。駅前のタクシー乗り場で胸にホテル名の入ったプラカードを下げて、タクシーに乗ろうとする人に「うちのホテルに泊まってください」と営業活動をする。自発的にうまれたサークル活動でお客様に向けた舞踊発表会を開く……
決算見通しが赤字になりそうだということがわかると、従業員からはとんでもない要望が出されました。労働組合が従業員の給与の1割削減を提案してきたのです。従業員自らの給料を減らしてでも黒字を達成してほしいという前代未聞の要求でした。会社は一旦断りましたが、交渉の末に提案を受け入れました。その結果、その年度は黒字決算を出すことができました。以後、閉館まで黒字経営を続けます。
この時すでに、アソシアは会社やGMによって運営されるホテルから、会社と従業員が一体となって運営されるホテルに変わっていたのです。
明るい笑顔で自信と誇りを持って仕事をする従業員のいるホテルが、顧客の支持を得ないはずがありません。ホテルもレストランも常連客が増え、中には従業員に「この前お世話になったわね」とお土産を持ってきてくれる人まで現れました。アソシアはいつしか稼働率90%を超える、名古屋で一番人気の高いホテルになっていったのです。
映画の中の名言
映画の中で出てきた「名言」をご紹介します。泣かせどころでもあります。
- GM「従業員に言うんです。僕は『お前』を見とる。『お前ら』じゃないんだ。一人ひとりを見ていると言っているんです」「僕はここで大きな家族を作ってきた」
- Aさん「お客様から感謝されることがとても嬉しい。最上のサービスのあり方というものがあのどん底をしっているからこそわかったのだと思います」
- Bさん「レストランで食中毒を出したことがあります。届出が必要な人数ではなかったけれど、自ら公表し、ご利用いただいたお客様全員に対してお詫びのお手紙を出しました。従業員が手分けをして一晩で書きました。随分議論をしましたが、自分たちが一番大事にすべきなのは『正直である事』だという結論でした」
- Cさん「私にとってこのホテルは「学校」でした。18の時からたくさんのことを学びました。楽しかったです。学んだことがこれから働く新しいホテルでも活かせます」
従業員の幸せとは?
「顧客満足は従業員満足があって初めて得られる」と言います。これは真理だとおもいますが、アソシアは「満足」でなく従業員の「幸せ」実現を目指しました。
では、従業員=働く人の幸せとはなんでしょうか?
私なりに考えてみたことは、以下のような点です。
- ある程度の収入が得られ衣食住など生活の心配がない。
- 会社の経営が安定し倒産などの不安がない。
- 共に働く仲間を信頼できる。仕事について家族からも支持される。
- 企業や仲間から認められ、尊敬される。
- 自分の仕事を通して顧客の満足・幸せに貢献したい。自分の仕事に誇りを持ち、達成感を感じられる。社会に役立っていると感じられる。
これはアソシアの実践の中で全て実現されていたのです!
また、逆から見ると「マズローの5段階欲求」に似ていますね。
そう第5段階の「自己実現欲求」を満たしていることになります。
全経営者にぜひ観て欲しい映画
経営再建に取り組んできたGM・柴田秋雄さんとアソシアに働く人たちは、どん底から這い上がる厳しい実践の中で、こうした「従業員の幸せ」を獲得してきました。簡単なことではありませんが、経営者が企業経営のあり方、従業員に対する見方を転換し、当の従業員を巻き込んで実践を重ねれば、到達できると思います。企業の経営者(特に中小企業の経営者)の方にはぜひ観ていただきたい映画です。
映画の自主上映については、下記をご覧ください。
NPO法人ハートオブミラクル
柴田秋雄さんのインタビュー記事、こちらが参考になります
GLOBIS知見録
マズロー5段階欲求説について