「四方よし」のお手伝い

社長さんと社員さんが共にWinWinの関係となる。近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)と重ね、「四方よし」の関係づくりのお手伝いをしたいと考えています。このブログが何かの参考になれば幸いです。なお、記事の法令等に関わる記述は、執筆当時に施行または施行予定だった内容で、その後の改正に対応してない場合がありますのでご了承ください。

定年後の再雇用 大幅な賃金ダウンは不法行為に

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 今日3月31日で定年となり、来週から再雇用され引き続き仕事を頑張る、という方も多いのではないでしょうか。そうした定年を迎えた方にとっても、事業主にとっても気になるニュースが入ってきました。高年齢者の継続雇用制度をめぐる司法判断についてみてみましょう。

 

「九州惣菜事件」判決が確定

 定年後雇用継続制度により再雇用となる際に、業務量の減少を理由に大幅な収入減となるのは許されるのかを争った「九州惣菜事件」の福岡高裁判決(2017年9月7日)が確定しました。最高裁が、3月1日に原告の上告を退けたため、30日に判決が確定したものです。

 

産経新聞 Web3月30日

www.sankei.com

朝日新聞 Web 3月30日

www.asahi.com

 

 この裁判では、九州惣菜の元正社員だった女性が60歳で定年となり再雇用を希望した際に、会社側が提示した労働条件が「月収で4分の1」と大幅な減少となることを不服として再雇用契約を結ばず、「定年前の8割の賃金」での地位確認と再雇用の機会を侵害したことへの逸失利益・慰謝料を求めて訴訟を起こしたものです。

 

提示された労働条件

 会社から提示された労働条件は、次のようなものでした。女性の定年前の月額賃金を時給になおすと1944円でしたが、再雇用条件短時間契約となり時給900円と半分以下となっていました。しかも、会社は業績不振を理由に契約時間の短縮を求めました。これにより、女性の月収ベースでみると定年前の4分の1にまで減額となってしまうというものでした。

 

一審、二審の概要

 福岡地裁小倉支部の一審判決(2016年10月27日)は、業務の範囲は定年前より限定されており、時給900円は他のパート社員と比べても不合理はない、として原告の訴えを棄却しました。

 これに対して福岡高裁の二審では、業務量が減ることで短時間勤務契約となる提案は理解できるが、月収が「75%も減少」することを正当化する合理性は認められないと判断しました。受け入れ難い条件で不法行為であるとして慰謝料の支払いを命じました。逸失利益については、雇用契約が成立しなかったことから認めませんでした。

 

労働組合・全国一般福岡地方本部の記事(フェイスブック

www.facebook.com

 

高年齢雇用確保措置の趣旨

 今回の判決の根拠となっているのは、高年齢者雇用安定法で、第9条で事業主に高年齢者雇用確保措置をとるように義務付けています。これに基づいて企業は継続雇用制度を導入し、希望する労働者を継続雇用しなければなりません。今回の判決では、この継続雇用制度の趣旨について次のように解釈しています。

  • 極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示するのは、継続雇用制度の趣旨に反した違法性がある。
  • 当該労働者が、継続雇用制度の合理的運用によって65歳まで安定して雇用されるという法的保護による利益を侵害する不法行為である。
  • 継続雇用制度は、定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されるべきである。
  • 上記の例外的な労働条件が提示されるためには、合理的な理由が必要である。本件はそのような合理的理由を認められない。

 厚労省高年齢雇用確保措置Q&A

www.mhlw.go.jp

継続雇用にあたっての留意点

 上記のように、再雇用後の労働条件を定めるには、労働条件の継続性・連続性について留意する必要があります。再雇用だから、これまでとまったく違う職務を与え、そのことによって給与を大幅に引き下げる、ということもできません。(トヨタ自動車ほか事件/名古屋高裁2016年9月28日)

 したがって、職務や役割を変える/業務量・労働時間を減らす/雇用形態について事前協議をする/月収ベースで極端な減額とならないよう給与水準を確認する、といった点を押さえた条件づくりが求められます。定年となるまでに十分に時間をとって、本人の希望を聞き、条件を提示して話し合って決めるといことが大切だと思います。

 トヨタ自動車ほか事件(名古屋高裁判決)

www.nikkei.com

WinWinの雇用条件でベテランのモチベーションアップを

 再雇用にあたって、業務内容についても一定の継続性を持たせ、知識・経験を生かした働き方をしてもらうことが、経営にとっても有効になると思います。人手不足が叫ばれる中、まだまだ元気な高年齢労働者のモチベーションをアップさせて、業績向上や後進の指導・教育に役割を果たしてもらうことは、企業の将来にとっても価値ある積極策といえるのではないでしょうか。

 

END

 

留学生を雇用する際の留意点について

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  ⭐️留学の本来の目的「勉学・研究」がおろそかにならないように

 

ラーメン「一蘭」社長、書類送検

 昨日(3月6日)の新聞各紙が、大きな見出しで報道しています。容疑は留学生のアルバイト雇用に関する入国管理法違反と雇用対策法違反容疑です。毎日新聞電子版の記事によれば、ラーメン一蘭大阪市内の2店で雇用されていた留学生は550人で、入国管理法で定めれた週あたり実働28時間以内という基準を超える最高で月間164時間も働かせていたということです。留学生の間でも「時給が良い」「長い時間働ける」と”評判”になっていたといいます。違法な雇用が常態化していたものと思われます。

 

mainichi.jp

外国人雇用には制限があります

 「人手不足の折、採用を急ぎたい」「増え続ける外国人観光客への接客対応で日本語も話せる留学生をぜひ採用したい」と留学生の採用ニーズは高まっています。

 しかし、留学生を含む外国人を雇用する場合には、労働基準法などの労働法の適用だけでなく入国管理法などにより雇用規制、労働時間制限があります。採用の際に就労資格などをきちんと確認し、ハローワークへの届け出など適正に処理をしておかないと、違反を問われ罰金や社名公表など大きな痛手を負うことになります。

 

留学生を雇用する場合の留意点

  • 1、まずは、留学生本人にアルバイトすることが「アルバイトの目的は?」「勉学に支障がでないか?」という点をきちんと話し合って、確認しておきましょう。また、留学生だからといって労働条件に差をつける、といったことは許されませんので、労働条件を明記した雇用契約書をきちんと交わしてください。英語表記の契約書または説明書を作成しておくとトラブル防止のためにも良いでしょう。

 

  • 2、「資格外活動許可」を受けている人しか採用できません。採用の際に、必ず資格の確認をしましょう。許可のない人は、たとえどんなに優秀な留学生でも採用してはいけません。

⬇︎入国管理局の解説資料 〜不法就労させると3年以下の懲役・300万円の罰金

http://www.immi-moj.go.jp/seisaku/pdf/2015fuhoushurou.pdf

 

  • 3、採用後、「週あたり28時間」を超えて働かせてはいけません。雇用契約が28時間以内でも、実体として28時間を超えて働かせていれば違法となります。シフト管理や残業などの労働時間管理を”現場”で行うことが重要です。「時間管理は現場の店長に任せていた」といっても悪質であれば経営者が責任を問われます。店長に法規制の意味を理解させ、管理を徹底しておくことが求められます。

⬇️東京労働局のWebサイトから 〜Q3,Q4を参照してください

外国人雇用に関するQ&A | 東京労働局

 

  • 4、上記には例外規定があり、「学校の休業中は1日当たり8時間まで」と緩和されます。夏休み、春休みなどの学校休暇期間については、日程をよく確認した上で就労させてください。

 

  • 5、採用および離職についてハローワークへの届け出が必要です。

 違反すると30万円以下の罰金が科せられます。

⬇️厚生労働省のWebサイトより 〜インターネットでの届け出もできます

www.mhlw.go.jp

 

 以上のような点に留意して違法・不法就労とならないようにしましょう。そして、留学生にとっても安心して働くことができれば、その能力を十分に発揮してくれるでしょう。

 

 

 

 

準備できていますか? ”有期から無期への転換” 

 

http://3.bp.blogspot.com/-GgkxgbIt-H0/WjXb7jzwelI/AAAAAAABIzE/Biom7tOaQ_oars-o5Z573QTOdP06OEeOACLcBGAs/s800/hanko_natsuin_woman.png

 

4月より 無期契約への転換ルールスタート 

 改正労働契約法の施行により、4月1日から5年以上契約更新の実績がある有期雇用契約の労働者が無期契約への転換を申し出ることができるようになります。雇用主は拒否することができません。この転換ルールの変更への準備はお済みですか?



無期転換のポイント


1、有期契約労働者で2013年4月以降に通算5年以上契約を更新した労働者は、「無期労 働契約」への転換を申し出ることができます。
2、対象は、パート社員、契約(嘱託)社員など半年や1年間など契約期間を区切って 更新してきた「有期労働契約」を交わしている労働者です。無期労働契約は、多くは 正規社員に適用されています。非正規社員の雇用の安定を図るための政策です。
3、今年4月1日以降に申し出があったら、法律によって「雇用者は承諾したものとみ なす」ことになります。

4、申し出があった時点で契約している有期契約が満了した日の翌日から無期契約に切 り替わります。

 例) 雇用契約期間が 4月1日〜3月31日 の場合

    無期転換への申し出 2018年6月1日

    無期契約への転換日 2019年4月1日

5、無期契約に変わったからといって、時給を上げる、賞与を出すなど労働条件を変更 する必要はありません。労働条件をそのままにして、契約を無期限にする、という対 応で問題ありません。

6、ただし、雇用政策を見直して有期契約労働者とは区分して新しい雇用区分を設け、 労働条件を上げる、といったことは可能です。あるいは、正社員に登用する、という こともありうるでしょう。こうした例では事業主には助成金が支給される場合があり ます。

 例) 有期雇用契約の労働者 パートタイマー  時給制、賞与なし

                 ⬇︎

    無期雇用契約の労働者 正社員  月給制、賞与あり に転換した

    ※賃金が転換前より5%以上改善した場合、キャリアアップ助成金正社員化      コースの受給対象となります。

www.mhlw.go.jp

 

継続雇用の高齢者の特例

  無期転換ルールがスタートすることで、定年後に引き続き雇用される有期雇用労働者(継続雇用、再雇用)についても無期転換申込権が発生します。定年が60歳の月末でありその翌月から1年単位で再雇用契約を結び雇用した場合は、65歳となった月末の翌日から無期転換への申し出をすることが可能となります。

 しかし、高齢者の場合、年齢が高くなるにつれ体力や健康面、業務の適正能力が個人ごとに大きく差が生まれてきます。それなのに無期雇用となると、雇用者に負担が大きくなってしまいます。そこで、都道府県労働局に認定申請し認定を受けることで無期申込が発生しない特例が設けられています。対象となる労働者がいて、特例を受けようとする会社は、早めに労働局への認定申請を行ってください。(申し出がある前に認定を受けておく必要があります。)

 ●対象となる労働者 定年後、同一事業主に引き続き雇用される有期雇用労働者

⬇︎有期特措法パンフレット

http://muki.mhlw.go.jp/point/leaflet.pdf

 

無期転換への対応

 上記の転換ルールが始まる4月までに、以下のような準備をしておくとよいでしょう。年度末を迎え、忙しくてそんな時間はない! という会社は社会保険労務士にご相談ください。

1、有期契約労働者を対象とする就業規則に「無期転換」の条項を加える必要がありま す。必要な変更をして、労働者への周知を行いましょう。労働基準監督署への届出も 必要です。
2、申し出を受けた際の申請用紙の準備、契約書の扱い方のマニュアルも整えておきま しょう。無期契約となった人へは「労働条件通知書」を毎年発行する、など労使双方 がわかりやすい仕組みをつくるなど工夫も大事です。

3、合わせて無期契約となった労働者をこれまでと異なる雇用形態、労働条件で雇用す るような場合は、新しい就業規則や給与規程なども作る必要があります。
4、経営戦略上「人材の安定的な確保」という視点で捉え、対象者に積極的に呼びか  け、無期転換を進めるということもあると思います。


  詳しくは、厚労省の下記のサイトを御覧ください。「無期契約申込書」のひな形などもアップされています。「ハンドブック」もわかりやすく編集されていますので、参考になると思います。
 

muki.mhlw.go.jp

無期転換ルールのことで、ご不明の点があれば、お問い合わせください。

→オフィス赤木 k.akagi@jobsupport.jp

 

つい目をそむけたくなる。  「未来の年表」

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この本は、読まないほうがよいかもしれない……

しかし、知っておかなければならないことが書かれている。

 

「未来の年表ー人口減少に本でこれから起きること」

          (河合雅司著、講談社現代新書2017年)

  著者は大正大学客員教授で専門は人口政策、社会保障政策。内閣官房有識者会議委員や厚労省農水省など政府委員を務めた経験があります。この本は、その専門の立場から、日本の未来について書かれています。2015年国勢調査結果や国立社会保障・人口問題研究所(社人研)のデータをもとに、「人口減少カレンダー」として詳しく解説しています。2017年から2050年までの毎年、そして2065年以降、年ごとに起きる社会的な問題が次々とカレンダーに表れてきます。

例えば

2023年 企業の人件費がピークを迎え、経営を苦しめる」

「2024年 全国民の3人に1人が65歳以上の『超・高齢社会大国』へ」

2033年 全国の住宅の3戸1戸が空き家になる」

2039年 火葬場が不足」

こんな見出しが並びます。驚きますよね?

 

日本の人口は大幅に減少 国が存立できなくなる?

 日本の人口は2011年から減少局面に入ったと言われていましたが、2015年の国勢調査で実調査結果として確認されました。国政調査が始まって100年、初めて減少に転じたのです。また、2016年の年間出生数が初めて100万人を割りました。おそらく2017年も同様の傾向でしょう。社人研の「日本の将来人口推計」(2017年改訂版)によれば、1億2700万人だった人口は、100年待たずに5000万人ほどに減少してしまうと指摘しています。本書では「こんなに急激に人口が減るのは世界史においても類例がない。われわれは、長い歴史にあって極めて特異な時代をいきているのである」と表現しています。そして、どんどん減り続ける日本人口は、西暦3000年にはなんと2000人になっているというのです。これではもう国としてなりたちません。

 

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/image/n1201060.png

  (出典)総務省国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所   「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」(各年10月    1日現在人口)、厚生労働省「人口動態統計」

 

静かなる有事

 人口減少により、日本の喫緊の課題として1.出生数の減少 2.高齢者の激増 3.社会の支え手の不足 4.これらが互いに絡み合って起こる人口減少 を挙げています。このことで、国民生活に支障が出てくる。このことを著者は「静かなる有事」とよび、国を挙げた対策に必要性を訴えています。

 

最大の課題「2042年問題」

 様々な困難な課題が出てきますが、著者は、もっとも深刻な課題として「高齢者人口が4000万人とピークになる2042年問題」だと主張しています。政府は人口問題の危機として「団塊の世代がすべて75歳になる2025年問題」を挙げ、これに向けた対策を打とうとしています。なんと、あと7年後に迫っています。しかし、著者は「団塊ジュニア世代が全て高齢者になり、高齢者となる2042年では高齢者が3960万人とピークに達し、福祉課題など表面化します。さらに深刻なのは勤労世代の口が2025年より1250万人も減少するというのです。

いったい日本の社会はどうなってしまうのでしょうか? よぼよぼ日本はどこへ行こうとしているのでしょうか?

 

日本を救う処方箋

 こうした厳然たる事実に基づく推計を前に、今からできることは何か? この本では、政府の進める4つの選択肢(外国人労働者受け入れ、AI活用、女性活躍推進、高齢者活躍)を検証し、いずれも課題が多いと指摘しています。その上で、「日本を救う10の処方箋」を示しています。

【戦略的に縮む】

  ①「高齢者」を削減 ②24時間社会からの脱却 ③非住居エリアを明確化

  ④都道府県を飛び地合併 ⑤国際分業の徹底

【豊かさを維持する】

  ⑥「匠の技」を活用 ⑦国費学生制度で人材育成 

【脱・東京一極集中】

⑧中高年の地方移住推進 ⑨セカンド市民制度を創設

少子化対策

  ⑩第3子以降に1000万円給付

それなりに現実的な対策から、かなり大胆は発想まで含まれています。個別にはコメントしませんが、こうしたこれまでの少子高齢化対策の延長ではなく、データに基づく正しい推計(都合のよい解釈ではなくて……)を根拠に、各方面からの根本的な対策検討が求められていると思います。

bookclub.kodansha.co.jp

 

25年後、あなたは何歳ですか?

その時、どのように働き、どのように暮らしていますか?

そして、誰と誰を支えているでしょうか。

  若い人は若いなりに、高齢者は高齢者なりに、自分自身の暮らし方・働き方を考えて生きる。同時に、家族や社会の中で自分にできる「支え方」で関わっていく。政府の政策実施や社会全体の仕組みを変えていくことも大切です。一方で、国民どうしが支え合う協同社会の実現が求めらていると思います。

 

 

ブラックボックス と #Me Too

 この本を読んで、あなたにも想像してほしい。いつ、どこで、私に起こったことが、あなたに、あるいはあなたの大切な人に降りかかってくるか、誰にも予測はできないのだ。 

伊藤詩織著「ブラックボックス」(文藝春秋社/2017)の「はじめに」に書かれた言葉です。

 

ブラックボックス

 ジャーナリストである伊藤さんが、就職の相談で会った元TBS記者山口氏にレイプされた事件について、被害者自身がその経過や事後の加害者とのやりとり、警察・検察の動きなどを自らも取材してレポート=告発しています。安倍首相に近いと言われる元記者に対して用意された逮捕状は執行されることなく、直前で逮捕は取りやめとなった。検察の判断も不起訴処分となり、検察審査会に申し立てを行ったことを受けて、伊藤さんは2016年5月、顔を出して記者会見を行いました。マスコミも取り上げたので、この会見について覚えていらっしゃる方も多いと思います。その後、検察審査会が「不起訴相当」の結論を出しました。彼女は、性犯罪のブラックボックスに光をあてるために出版を決意したのです。

books.bunshun.jp

 

性犯罪を裁くまでの厚い壁

 本書では、事件の経過とともに日本の性犯罪が親告罪であること、準強姦罪の立証・立件にいくつもの壁があり被害者にとって大変な苦痛を伴うものであることを、自らの心情と重ねて書き出しています。政治的な背景は別にしても、日本の性犯罪に対応する法整備や行政対応は遅れていると、北欧の例などをひいて指摘しています。スウェーデンでの取材で、365日24時間レイプ被害にあった人を受け入れる「レイプ緊急センター」をもつ総合病院のプライバシーを守る設備上の配慮や検査や治療、カウンセリングを受けられる体制ができていることを紹介しています。日本でもこうした組織・体制づくり、デートレイプドラッグの検査体制の整備が必要であると訴えています。

 

法改正で一歩前進

昨年7月に施行された改正刑法により、(準)強姦罪は「(準)強制性交罪」となり、親告がなくても公訴でき、これまで被害対象は女性に限られていたものが男性への犯罪行為も対象となりました。長年の関係者の努力の成果です。

 

www.sankei.com

 

関連犯罪は増加傾向

1月18日警察庁が発表した2017年の刑法犯件数(速報値)は、全体で91万5千件で前年比8.1%減で戦後最少記録を更新したそうです。しかし、強制性交等は12.3%増で1111件でした。この数字も氷山の一角かもしれません。

 

mainichi.jp

 

これまで表に出にくい性犯罪でしたが、相談・告発がしやすい制度や社会づくり、人々の意識を変えていく必要があります。そのためにも起こった事実を知り向き合う努力が私たちにも求められていると思います。

 

#Me Too

 

職場の忘年会でセクハラにあい、上司に訴えたが、加害者からの謝罪や処罰がないばかりか、訴えた当初は上層部から『そういう事実は確認できませんでした』と、まるでこちらがうそをついているかのように言われた。 

 朝日新聞のフォーラム「『#METOO』どう考える?」のデジタルアンケートに寄せられた40代女性の声です。

 昨年アメリカ・ハリウッドで有名プロデューサーによるセクハラを女性たちが告発したこときっかけに、「MeToo(私も)」と次々に告発が起きました。SNSで拡散するため#(ハッシュタグ)をつけて発信したことから全世界に広がるムーブメントとなりました。日本でも、こうした動きが広まっています。これらは、社会的意識を変えていくことにつながっていくかもしれません。

www.asahi.com

 

こうしたセクハラや性犯罪を起こさない、起こさせないためには、互いを人間として尊重し合う人間性を持つことと、社会の規範を作っていくことが大事だと思います。

さいごに、伊藤さんからのメッセージをご紹介します。

 

「今まで想像もできなかった苦しみを知り、また想像以上に多くの人の心の中に存在していることを知った。同じ体験をした方、目の前で苦しむ大切な人を支えている方に、あなたは一人ではないと伝えたい」 (あとがきから)

 

障害者雇用促進法の改正実施について −2018労働行政の話題(2)-

前回、2018年の労働行政の話題としていくつか紹介しましたが、補足情報です。

 

4月から障害者雇用率が引き上げられます

本日(2018年1月10日)の日経新聞精神障害者の雇用義務化、企業の48%『知らない』」の記事がありました。障害者雇用促進法により企業や行政団体には一定比率の障害者雇用が義務付けられています。民間企業では、現在雇用率2%となっています。つまり従業員50人のうち1人は障害者を雇用し、雇用できないのであれば障害者雇用納付金を負担しなさいという制度です。

 この障害者雇用率が法改正(平成25年)によって今年の4月から2.2%に、来年(2019年)4月からは2.3%に引き上げられます。

 

www.nikkei.com

 

精神障害者も雇用義務の対象に

 この引き上げと合わせて対象となる障害者について変更があります。これまでは身体障害者知的障害者を対象としていましたが、新たに精神障害者もその対象となります。精神障害者は、統合失調症気分障害などを含みます。企業で採用する際に、身体障害者知的障害者精神障害者を合わせて障害者雇用率を満たしていればよい、ということになります。

 

平成25年改正の内容

また、同じ改正で「障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務」、「苦情処理・紛争解決援助について」も明示されました。募集採用・賃金、教育訓練や福利厚生状の差別の禁止。障害者が働きやすい環境整備への配慮を求めています。また、労働者から苦情の申し出があった際には自主的に解決できるよう相談体制の整備も求めています。

 ■平成25年改正の内容(厚労省

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000121387.pdf

 

 

ダイバーシティ経営の視点から

多様な働き方を認めることでよりクリエイティブな仕事、業績をめざすダイバーシティ経営を志向する企業も増えています。今いちど御社の雇用、障害者雇用のあり方を見直してみてはいかがでしょう。

 ■価値創造に向けたダイバーシティ経営に向けて(経済産業省

http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/entry/pdf/h27betten.pdf

 

2018年の労働行政の話題

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新年あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。

                              2018年1月 

                            オフィス赤木 赤木一成

 

 

 さて、2018年は労働行政にとって大きな変化とその準備の年になりそうです。今年予定されている労働法・労働行政にかかわる大きな話題についてご紹介します。

 

有期契約から無期契約への転換

   2013年4月に施行された改正労働契約法で定められた無期転換ルールがありますが、この4月にその権利が発生する5年を迎えます。それまで契約更新を繰り返し通算5年以上雇用された人が無期契約への転換を希望すれば企業は無期雇用に転換しなければならなくなります非正規労働者の雇用安定をめざす趣旨ですが、企業によっては「雇用安定のため積極的に転換する」or「契約更新の上限を設け、雇用の流動性を確保する」など対応は分かれそうです。就業規則や契約関係書類の変更など実務上の整備も必要となりますので、まだ準備できていない会社は急ぎましょう。

  正規社員が定年を迎え再雇用となり5年を超えた場合に無期転換の例外を認める特例措置もあります。これについては、労働局に対して「第二種計画認定・変更申請」が必要となります。

 

⬇️ 詳しくは、厚労省無期転換サイトをご覧ください。

有期契約労働者の無期転換サイト

 

派遣労働者の雇用安定化ルール

 改正労働者派遣法の施行から3年が経過する9月30日以降に適用されるルールです。有期雇用の派遣社員が同じ職場で働ける期間を3年とし、同じ部署への派遣期間が3年を超えると原則、派遣先企業での直接雇用への切り替えなどが必要になります。適用が厳格化しますので、派遣を受け入れて3年目に入った派遣労働者がいる場合は、その人を自社で雇用するのか派遣契約をやめるのか判断が迫られます。しっかりと仕事ぶりを評価して、早めに判断をしてください。

 

働き方改革関連法案

 昨年の3月に政府が決定した「働き方改革実行計画」に示された労働基準法など関連法案の審議は、昨年の総選挙があったため新年に持ち越されました。直近の通常国会で審議される見通しです。その内容について、昨年9月の労働政策審議会は「おおむね妥当」という答申を出しています。

主な内容は

長時間労働対策として、残業時間に年720時間などの上限を厳しくし、違反した場合には企業に罰則もあります。

②仕事が同じなら賃金も同じにする同一労働同一賃金」を法制化します。

③労働時間でなく成果に対し賃金を払う「脱時間給」制度を創設します。国会では、脱時間給を巡り、野党の中には「残業代ゼロ法案」だとして反発する声があり審議の争点となりそうです。

 これら関連法案は、当初は2019年4月施行の予定でしたが、審議がずれたため後にずれる可能性はあります。いずれにしても大きな法改正として進められていきます。

 ⬇️「働き方改革実行計画」の概要はこちらをご覧ください。

https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf

 

最低賃金の引き上げ、春闘の動向

  最低賃金については、働き方改革実行計画の中でも「毎年3%」程度の引き上げ目標を掲げています。昨年も全国加重平均で25円の引き上げとなりました。今年も同水準の引き上げが予想されます。また、戦後最長の好景気に迫る景気回復基調とデフレ脱却を図る政策推進を受けて、今年の春闘は「3%賃上げ」が目安となりそうです。政府からも、労働界からもそうした意見が出ており、経済界も前向きに対応するようです。さて、賃上げが消費につながり物価を押し上げることにつながるかどうか……。

 

そのほかの労働行政課題

  この他にも、次のような課題があり、関連する行政、経済界、労働界での動きが活発化しそうです。詳細は別途ご紹介していきます。

  女性活躍推進・両立支援

  長時間労働対策、「過労死ゼロ」緊急対策

 テレワークの指針決定

 兼業・副業の解禁、転職促進の指針づくり

 人生100年時代の働き方、リカレント教育

 自分のキャリアを自分で設計〜セルフキャリアドック制度の推進

 労働災害防止〜メンタルヘルスやハラスメントの対策

 などなど。