組織における心理的安全性 ④「心理的安全性の4つの因子」
前回まで心理的安全性とはどういうものか、チームにとってどういう効果があるのかといったことを解説してきました。今回からは、職場に心理的安全性を作っていく、高めていくための方法について考えていきます。
心理的安全性を感じることができる因子
〜話・助・挑・新〜
心理的安全性の研究者であるエイミー・エドモンドソンは、心理的安全性を測る7つの指標を定義しています。ただ、日本の組織の実情に合っていない内容も多いことから日本の研究者は「日本版」を提唱しています。
「心理的安全性のつくりかた」の著者である石井遼介氏は、慶應大学で幸福学を研究している前野隆司教授らと共同して日本版の尺度を開発しました。そこから、日本の組織において心理的安全性を感じる組織の因子として、次の4つを提唱しています。
【話しやすさ】
〜心理的安全性の土台となる因子。多様な視点からの意見が自由率直に言える。仕事に関する質問が遠慮なくできる。皆と異なる意見をもっていても、黙ってしまわず発言できる。
ひと言でいうと <何を言っても大丈夫>
【助け合い】
〜問題が起こった時に、人を責めずに問題解決に力を合わせる。リーダーやメンバーは、いつでも相談に乗ってくれる。
ひと言でいうと <困った時はお互いさま>
【挑戦】
〜このチームで何かに挑戦することが、自分にとって損ではなく得だと思える。面白いと思うアイデアをメンバーに提案してみようと思える。
ひと言でいうと <とりあえずやってみよう>
【新奇歓迎】
〜人の多様性を重視する因子。自身の強みや特性を発揮することを歓迎されている。常識にとらわれない様々なものの見方考え方が受け入れられている。このチームでは目立っても良いと思える。
ひと言でいうと <異能歓迎!>
4つの因子、
みなさんの職場では
いかがですか?
心理的安全な組織を作っていくために
職場の中に心理的安全性の4つの因子を作り、育てていくためには、企業、チームリーダー(マネージャー)、メンバー(従業員)それぞれが意識を変え、取り組んでいくことが必要です。
以下は、その例です。
(1)企業レベルでの取り組み
・心理的安全性の重要性を理解し、従業員に対する関わり方を示す。
・ガイドラインなどを策定・公開することで従業員が安心して働ける環境を整える。
・従業員の意見を積極的に収集し、改善することで従業員が意見を言いやすくする。
・コミュニケーション改善やチームビルディングのプログラムや研修を提供することで、従業員同士の信頼関係を深める。
(2)リーダーレベルでの取り組み
・メンバーの意見に対してオープンであり、受け止める姿勢を示し、信頼関係を築く。
・メンバーのプライバシーや個人情報を尊重することで、自己開示できる環境を整える。
・メンバーの仕事を認め適正に評価する。
・メンバーの成長を支援するために、継続的なコーチングやフィードバックを提供する。
(3)一人ひとりのメンバーレベルでの取り組み
・自分自身の強みや弱みを認識し、職場内で自己開示することで信頼関係を築く。
・他のメンバーの考え方や意見に対して、オープンで前向きな姿勢を示す。
・自己管理スキルを向上させ、ストレスや不安を適切に管理する。
・リーダーやメンバーのフィードバックに対して、前向きな姿勢で受け止め、改善するための努力をすることで自己成長をめざす。
※次回は、「行動と言葉で作る心理的安全性」について解説していきます。
組織における心理的安全性③ ー心理的安全性とチーム力ー
前回は、心理的安全性のない組織でのリスクについて、航空機事故を例に紹介しました。また、心理的安全性の高いチームでの効果について触れました。今回は、心理的安全性とチームの活性化について。
心理的安全性って、仲良し職場なの?
「心理的安全性」という言葉のイメージから、安全で楽しい集まりと捉えられる”誤解”もあるようです。もちろん、チームのメンバーの仲が良いに越したことはないですね。Googleのチーム研究の例でご紹介しましたが、生産性が高く成果を上げているチームでは、心理的安全性というしっかりした土台が築かれていました。企業内にあるチームであれば、関係性が良いだけでは成り立たず、なんらかの組織的成果(業績)を上げていくことが求められます。そうでないと組織自体が存続できません。関係性と成果を両方高めていこう、というのが組織における心理的安全性を保つ目的です。
あなたは、どの職場で働きたいですか?
下図をご覧ください。心理的安全性と仕事の基準の関係をマトリクスにして表したものです。
<キツい職場> 仕事の基準が高く求められることも大きいのに、心理的安全性が低い
状態。ノルマや叱責によるマネジメントの下、不安を抱きがちな職場
です。
<サムい職場> 仕事で求められることは小さいが、心理的安全性が低い職場。仕事の
改善提案などをしても無視されたり批判されるので、モノ言わずに指
示されたことだけをやっている、そんな職場です。
<ヌルい職場> メンバーの関係性が良く、何を言ってもOK。失敗にも寛容。仕事で求
められることもそれほど高くないので楽だけど、充実感や成長実感を
持ちにくい職場。
<学習する組織> 心理的安全性を土台にして、発言や質問がいつでもできて、自分の
意見や提案が発信できる。職場の目標は高めに設定されているが、チ
ーム全員で共有して取り組むので、やりがいがある。
※「学習する組織」は、チームの成功や失敗など実践から生きた学習をし合う組織のことです。
<心理的安全性と仕事の基準>
|
仕事の基準/Standard |
||
低い |
高い |
||
心 理 的 安 全 性 |
高い |
ヌルい職場コンフォートゾーン 仕事の充実感はない |
学習する組織学習して成長する職場 健全な衝突と高いパフォーマンス |
低い |
サムい職場よけいなことはせず 自分の身は守る |
キツい職場不安と罰によるコントロール
|
心理的安全性とチームの生産性
心理的安全性のある環境では、チームの生産性が高まります。なぜなら、心理的安全性がある環境では、メンバーがアイデアを提供し合い、意見を交換し合い、議論を行い、問題解決に取り組むことができるからです。また、メンバー同士の信頼関係が高まり、協力し合いやすくなります。
★★次回からは、「心理的安全性の作り方」について考えていきます★★
組織における心理的安全性② ー組織に与える影響ー
航空機関士「パンナム機はまだ滑走路にいるんじゃないでしょうか?」
機長「いや、出たさ。行くぞ。」
航空機関士・副操縦士「・・・・・」
ボーイング747のコックピットでの会話です。
口にされなかった 「・・・・・」 に大きなリスクがありました。
史上最悪の航空機事故「テネリフェの惨事」
1977年3月カナリア諸島の小さな空港で2機のボーイング747(ジャンボジェット)が衝突・炎上し583名が死亡する大事故が発生しました。KLMオランダ航空のベテラン機長で「ミスターKLM」の異名をとるファン・ザンテンが、濃霧の中着陸したパンアメリカン航空機が滑走路から出ていないにも関わらず離陸を強行し衝突したのでした。その間、副操縦士や航空機関士は管制塔との交信状況から「滑走路にまだいるのではないか」との危惧を伝えました。しかし、パイロット免許の交付権限さえあるザンテン機長の「出ただろう」との回答に、それ以上異議を唱えられなかったのです。
人は、このような権威権限のある上司やリーダーの前で、重要な意見を述べるべき状況になったときにどのような行動をとるでしょうか。心理的安全性がない組織では、発言することが自分にとってプラスになるか、それとも損失になるのかを天秤にかけてしまいます。その結果、発言しないという選択をすることがあります。テネリフェの惨事と呼ばれたこの事故の際にも、副操縦士たちは「管制塔の指示を待つべきです!」と発言できなかったのです。心理的安全性の高い組織であれば、どれだけベテランの機長であったとしても若い部下の提案に耳を傾け、冷静に判断をしたのではないでしょうか。
航空業界では当時頻発していたこうした人為的な事故を教訓にクルー・リソース・マネジメント(CRM)訓練を開発し、コックピットやクルー、管制塔を1つのチームとして、持っているリソースを効果的に活用する訓練を実施しています。その中で重視されているは、メンバーのコミュニケーションであり心理的安全性の確保なのです。
心理的非安全な組織の経営リスク
心理的安全性のない組織では、意見が自由に言えず、失敗を許さない空気があり、小さなミスが重なって大きな経営リスクとなることがあります。起こりうる問題点として、次のようなことが挙げられます。
①重大な事故の発生〜不具合を指摘できない。
②不祥事、コンプライアンス違反〜きちんと声を上げられていたらもっと早く対処できた・・・
③組織(部署)間の溝〜情報を共有し連携するどころか対立することも。
④頻発する組織トラブル〜事故・事件の情報・教訓が生かされない、いつも他人事。
⑤新しいことにチャレンジができない〜新基軸提案も潰される、忖度する。
⑥重要プロジェクトの失敗〜知恵が集まらない、間違っても修正されない
⑦ハラスメントの起きやすい組織風土に。
⑧これらの結果、離職率の高い職場になる。
心理的安全性の高いチームでは
心理的安全性が高いチームでは、誰もがたとえ不都合な真実であっても仕事を進める上で必要な情報を共有し、それぞれのメンバーの視点で意見を出し合い、また疑問を確認できます。そして次のような効果が生まれると、産業医・経営コンサルタントの上村紀夫氏は指摘しています。
①チームと個人のつながりを深める(離職対策)
②精神的ストレスの軽減、個人・組織の成長を高める(メンタルヘルス対策、組織力UP)
③「働きやすさの積み上げ施策」→働きがいUPが期待できる(健全な定着へ)
④但し万能薬ではないので、組織活性化が第一。
※次回は、心理的安全性とチーム活性化について
組織における心理的安全性について① ー心理的安全性とはー
今、ビジネスの世界では「心理的安全性」(Psychological Safety)という言葉が注目されています。心理的安全性が確保されている組織は生産性が高い、という研究結果も発表されていて、心理学的な視点だけでなく経営組織論的にも研究がすすめられています。これは、私たち働く者にとってとても身近なテーマでもあります。この連載では、この心理的安全性とはなにか、その作り方は?といったことを3回に分けてご紹介していきます。
心理的安全性とは?
「心理的安全性」という考えは、ハーバード大学・エイミー・エドモンドソン教授により提唱された概念です。
「チームの中では対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、とメンバーに共有されている信念」と定義されていますが、ちょっと硬いですね。
「職場や学校、コミュニティの中で、その地位や経験に関係なく、誰もが率直な意見や素朴な質問を言うことができる状態」
という表現だとわかりやすいでしょうか。
みなさんには、こんな経験はないですか?
〜何か質問したいことがあっても、「そんなこともわからないのか!」と言われてしまいそうで、言わないでおいた。あるいは、意見や提案をする際には、上司やリーダーのご機嫌を伺ってしまう。こういう組織は、心理的安全性が低い組織といえます。逆に、「このメンバーだったら、どんなことでも意見が言え、質問や相談ができる」という関係性もあるのではないでしょうか。こういう組織は心理的安全性が高いといえます。
なぜ注目されているの?
エドモンドソン教授の研究チームは、元々は医療現場の組織について調査・研究していました。たくさんのチームを調べたところ、成績の良いチームほどミスが多いことがわかったのです。
「???」ですよね! 更に分析してみてわかったことは、「ミスの報告数が多い」という点でした。つまり、大小のミスを随時報告・共有し、対策を打っているチームがより良い医療成果をあげていたのです。チームが「叱責されるのが怖くてミスの報告ができない」状態だと、良い成果はあげられない。このことから、心理的安全性がチームの成果に与える影響が大きいとレポートしたのです。
その後、Googleのプロジェクト・アリストテレスが社内にたくさんあるチームの状況と生産性の関係について調べ、次のようなレポートをまとめました。
「重要なのはチームのメンバー構成よりも、チームの協力体制がどのようなものかということで、その協力の方法の中で圧倒的に重要なのが心理的安全性である。また、心理的安全性が高いチームは離職率が低く、収益性が高い」
こうしたビジネス界での研究や実践から、注目されるようになりました。
心理的「非」安全性の対人関係リスク
心理的安全性がない組織では、人は「〜と思われたくない」と考え、対人リスクを避ける行動に出ます。たとえば次のようなことが起きてしまいます。
無知と思われたくない → 必要なことでも質問せず、相談しない。
無能と思われたくない → ミスを隠す。自分の考えを言わない。
邪魔だと思われたくない → 必要でも助けを求めず、不十分な仕事でも妥協する。
こうした行動は、個人の問題だけでなく、その組織にも少なからぬ影響を与えてしまいます。たとえば、小さなミスが大きなミスに拡大してしまい、大きな損失につながってしまうこともあります。
※次回は、企業に与える影響などを解説します。
4月完全施行 パワハラ防止法
パワハラ防止法解説 その2 事業主の雇用管理上の措置
パワハラ防止法では、事業主にパワハラが起きないよう相談体制の整備など雇用管理上必要な措置を義務付けています。厚労省が定めた指針では、具体的に下記の点を挙げています。
①事業主のパワハラ防止方針等の明確化およびその周知・啓発
②苦情などを含む相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③パワハラが発生してしまった後の迅速かつ適切な対応
④上記①〜③と併せて講ずべき措置
それぞれの措置の内容と対応ポイントは以下のようなものです。
■事業主の方針等の明確化および周知・啓発
①パワハラを禁止する方針の明確化とその周知・啓発
・「ハラスメントは許しません!」というトップのメッセージを作成・公表する。
・管理監督者を含め従業員に周知する。啓発活動に取り組む。
②パワハラ発生時の対処方針や内容について規定し、その周知・啓発
・就業規則、ハラスメント防止規程や服務規律を改定し、パワハラを行ったものにつ いては、厳正に対処する旨を明確に示す。
※すでにセクハラ、マタハラ防止の規定整備とともに設定済みの企業も多いと思いますが、再確認です。
・そのことを社内報、パンフレット、ポスター等を使って従業員に周知する。
・従業員研修・講習でハラスメントについての理解、防止のための知識を広める。
(ポイント)
・研修は、管理職向けと社員向けとは内容を分ける方がよいでしょう。
研修内容の例
対象者 |
主な研修内容 |
全社員 |
ハラスメントとは/どういう言動がハラスメントにあたるか/会社の方針・規則の説明/ハラスメント防止のために |
管理職 |
全社員向け研修内容に加えて ハラスメントの企業への影響/ハラスメント防止管理職の役割/ハラスメントにならない指導法/アンガーマネジメント |
相談窓口担当者 |
ハラスメントの定義/事業主の雇用管理措置の内容/相談担当者の役割と業務/相談者への対応(演習含む)/行為者へのヒアリング(演習含む) |
・周知・啓発にあたっては、防止効果を高めるため、パワハラの原因と背景について理解を深めることが大切です。
■苦情を含む相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談窓口の設置、相談担当者を任命する。
・相談窓口を労働者に周知する。
・相談担当者が相談に対して適切に対応できるよう、相談やヒアリングなどの対応についての留意点をまとめたマニュアルの整備し、継続した学習・研修の実施する。
(ポイント)
・窓口は、従業員が相談しやすい体制とするため、複数(できれば3人以上)の担当者を配置しましょう。
・相談担当者が社長や管理職だと相談しにくいということもありますので、職位・階層が異なるメンバーで構成する方がよいでしょう。男女の比率なども考慮しましょう。
・パワハラだけではなく、セクハラやマタハラ、その他の相談を幅広く受けるようにしましょう。それぞれのハラスメントは複合して発生することも多いので。
・担当者の変更があった際や年度替りなどに、その都度相談担当者名、相談方法・連絡先などを知らせていきましょう。
・社内では十分な体制が取れない場合は、外部相談窓口の設置も有効です。顧問社労士、ハラスメント研修・相談対応を専門とする会社など(いずれも有料となります)
※この場合も、外部で受けた相談に対して誰がどのように対応するのかという社内体制の整備は必要です。
・相談の受付方法についても、対面、電話、メール、オンラインなど複数の方法を設けておきましょう。
■ハラスメント発生時の事後の迅速な措置・対応
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること
(ポイント)
・相談者からの相談されたことの事実関係の確認が第一です。曖昧にしたり放置すると大きな問題となります。迅速にヒアリング、事実確認を行なってください。また、思い込みや推測による事実認定をすると、判断を間違う可能性がありますので、正確に押さえていくことが大事です。
・相談された内容については、いつ、どこで、誰が、どのように、どんなことを行ったのか(5W1H)を整理します。また、相談者(被害者)がその言動でどのような影響をうけたのか、また行為者や企業に対してどのような対応を望んでいるのかを聞き取ります。
・行為者へのヒアリングでは、最初から「加害者」と決めつけないことも大切です。ヒアリングをするというだけで、時に感情的に反発されることもあるので、冷静に話を聞ける環境や状況の準備をすること、担当者を選定する際も配慮が必要になります。
・事実関係を確認する上で、第三者(行為事実があった時に同席していたい人、同じ部署の人など)へのヒアリングを実施することが有効な場合もあります。
②ハラスメントと判断した場合
・被害者に対する配慮のための措置を迅速・適正に行う。
措置 例 |
・行為者の関係改善に向けての援助 ・被害者と行為者を引き離す配置転換 ・行為者の謝罪 ・被害者の労働条件上の不利益の回復 ・メンタルヘルス不調者へ相談対応、治療支援 |
・行為者(加害者)に対しては、必要に応じて部署異動などの措置と就業規則による懲戒等の処分を行う。
措置 例 |
・必要な懲戒その他措置 ・被害者との関係改善に向けた援助 ・被害者と行為者を引き離す配置転換 ・行為者の謝罪 |
③再発防止、周知・啓発
・あらためて職場におけるハラスメントに関する方針を知らせる。
・相談のあった事例の再発を防ぐため、留意すべき事項などを知らせる。
(ポイント)
・個人が特定・推測されないよう、直接的な事例紹介は避けましょう。
・この再発防止、周知・啓発は、相談事案がハラスメントと判断できなかった場合も実施します。
■上記3つの措置と併せて講ずべき措置
①プライバシーの保護に必要な措置
・相談や事後の対応に際し、相談者はもちろん行為者やヒアリングに応じた第三者などのプライバシーが守られること。
・プライバシーには、性的指向・性自認や病歴などセンシティブな個人情報も含まれます。
②不利益扱いの禁止
・相談したこと、ヒアリングに応じたことを理由として、解雇その他不利益取扱をしないこと。
・不利益扱いそのものは、パワハラ判断の内容に関わらず不法行為となります。
明るい職場応援団
厚生労働省ハラスメント防止推進Webサイト「明るい職場応援団」には、使える情報が満載です。今回ご紹介した事業主の雇用管理措置について、「指針」や「パワーハラスメント対策導入マニュアル」が参考になります。また、研修に使える動画もアップされています。活用してください。
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
ハラスメントのない職場づくりは活気のある職場づくり
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の全面実施に合わせて、事業主の講ずべき雇用管理措置について解説しました。法律改正に伴う措置ということですが、ハラスメントのない職場づくりにはより大きな目的があります。パワハラ、セクハラ、マタハラや職場でのいじめ・差別は、働く人の労働意欲を削ぎ、チームの力を落とします。誰もが意見や質問を気兼ねなく出せて、安心して働ける職場は、生産性が高く成果を上げているという研究結果があります。(Google 「プロジェクト・アリストテレス」)そうした心理的安全性のある職場を作っていくことで、企業の業績も上がっていくという相関関係があると思います。その出発点ととらえて、ハラスメント防止の体制作りを進めていただくと良いと思います。今回の記事がそのヒントになれば幸いです。
ハラスメント防止体制づくり・研修実施のご相談先
オフィス赤木
赤木一成(21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント、
e-mail : k.akagi@jobsupport.jp
#パワハラ防止法 #2022年4月1日施行 #ハラスメント防止 #明るい職場応援
4月1日、パワハラ防止法全面施行
パワハラ防止法 解説その1
2019年5月に成立したパワハラ防止法(労働施策総合推進法第30条の2)が、来月1日から全面施行となります。(大企業は先行して2020年6月施行)そのため、労使双方から法対応についての関心が高まっています。今回はパワハラ防止法の概要とこれに伴い厚生労働省が作成した「パワハラ防止ガイドライン」(以下、指針)の内容で、特に事業者が整えておくべき制度や取り組みについて解説していきます。
パワハラの定義を初めて法制化
セクシュアルハラスメント(セクハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)は、それぞれ男女雇用均等法、育児介護休業法において法律上の規定があります。しかし、パワーハラスメントについてはこれまで法律上の規定がなく、判例に基づいて解釈されてきました。職場でのいじめ嫌がらせ、パワーハラスメント事例の増加の中で、今回、法律上の定義がされ、基準が明文化されました。
パワハラの定義
職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③その雇用する労働者の就業環境が害される こと
※上記の3つの要件を全て備えている場合にパワハラとなります。
優越的な関係
ここでいう「優越的」とは、部下に対する上司といった職務上の優越だけではなく、先輩・後輩、社歴の長短など人間関係での優越を含みます。両者の関係において、実質的なパワーを持っているはどちらか、ということが判断の基準となります。例えば、飲食店で社歴の長いパート職員が新人の正社員に対して行う言動も対象となります。
業務上必要かつ相当な範囲
上司などが仕事上の注意や指導を行うことは、業務上必要なことです。しかし、その言動が仕事の必要性がなく行き過ぎた場合はハラスメントとなります。例えば、仕事上のミスに対する注意の際に、「お前は無能だ」「給料泥棒だ」など人格攻撃をするなどは仕事上の必要はありませんね。また「相当な範囲」の基準は、行為を受けた本人の受け止めがどうかということもありますが、「平均的な従業員がハラスメントと感じるか」といった視点で基準を当てはめていきます。
労働者の就業環境を害する
行為者の言動によって、精神的・身体的苦痛を与え、職場の働く環境を悪化させることを言います。これには、行為者と被行為者の関係だけではなくて、その言動によって周囲の人が仕事に取り組むことができない(しにくい)状況に置かれることも含まれます。例えば、上司が部下Aに対し、他の従業員がいるところで延々と厳しい叱責を繰り返すことで、周り中が萎縮してしまうといったことが挙げられます。往々にしてこうした職場はコミュニケーションがとりにくく、仕事の効率も落ちてしまうものです。
どのような行為がハラスメントになるのか
厚生労働省の指針では、「6つの行為類型」として、下記のように定めています。
行為類型 具体例
身体的な攻撃 殴る、蹴る、物を投げつける
精神的な攻撃 言葉の暴力、人格否定発言、人の前で叱責する
人間関係の切り離し 意図的に無視する、別室に隔離する
過大な要求 能力を超えて過大な仕事をさせる
過小な要求 能力に見合った仕事をさせない、単純作業のみさせる
個の侵害 個人のことを執拗に訊く、業務外で従業員を監視する
事業主の雇用管理条の措置
法律では、事業主に上記のパワハラが起きないよう相談体制の整備など雇用管理上必要な措置を義務付けています。厚労省が定めた指針では、具体的に下記の点を挙げています。
①事業主のパワハラ防止方針等の明確化およびその周知や啓発
②苦情などを含む相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③パワハラが発生してしまった事後の迅速かつ適切な対応
④上記①〜③と併せて講ずべき措置
※次号で、それぞれの措置の内容と準備のためのヒントを解説します。
#パワハラ防止法 #2022年4月1日施行 #ハラスメント防止 #明るい職場応援
知っていましたか? 健康保険の制度が変わりました 〜2022年、主な法改正〜
2022年がスタートしました。今年予定されている雇用・労働関係の主な法改正についてご紹介していきます。
【1月から改正された健康保険法の改正内容】
1.傷病手当金の支給基準変更
傷病手当金とは?
健康保険(協会けんぽ、健保組合)の加入者(被保険者)が、病気や怪我で仕事を3日連続して休んだ場合、4日目以降に1日の賃金相当額の3分の2が「傷病手当金」として健康保険から支給されます。ただし、休んでいる期間に対して傷病手当金額以上の給与等が支給されている場合は対象となりません。
1日の賃金相当額は、次のように算出されます。
<支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額>÷30日
長期の入院が必要で年次有給休暇も残り少ない、といった時には傷病手当金はありがたい制度ですね。
支給基準の変更内容
傷病手当金の支給は1年6ヶ月されますが、その基準が「暦日」から「通算」に改正されました。
(改正前)支給を始めた日から起算して1年6か月を超えない期間支給する
(改正後)支給を始めた日から通算して1年6か月間支給する
これまでは、支給開始から1年6ヶ月を超えると支給が打ち切られたので、たとえば長期入院していて回復したので仕事に戻り、その後同じ病気で体調を崩してしまい再度入院した、といったケースでその期間中に1年6ヶ月を超えると、それ以降の手当は支給されませんでした。
しかし、改正後は「支給開始日から暦日で1年6月の計算を行い、支給日数を確定」し(たとえば、2021年2月1日から2022年7月31日なら549日)、支給日数累計がこの日数に達するまで手当金の支給が継続されます。この違いは大きいですね。これまでよりも安心して治療に専念できるようになり、治療と仕事の両立が図りやすくなります。
2.任意継続制度の変更
任意継続被保険者制度とは
健康保険の加入者が退職し、その被保険者資格を喪失した場合に、次のいずれの要件を満たせば退職後最長2年間、引き続きそれまで加入していた健康保険に加入できる制度です。
①資格喪失日の前日までに「継続して2か月以上の被保険者期間」があること。
②資格喪失日から「20日以内」に申請すること。(20日目が営業日でない場合は翌営業日まで)
任意継続被保険者の保険料は、それまで会社が負担していた分(多くは2分の1)の保険料も全て負担することになります。退職直前の給与額によっては国民健康保険より保険料負担が低い場合もあるため、退職時にいずれの保険制度に加入するかの比較し選択することになります。
変更内容
継続被保険者は、任意脱退の制度がありませんでしたが、今後申出書を提出することにより任意脱退が可能になりました。また、保険料の基準見直しも行われます。詳しくは加入されている健保(協会、組合)にてご確認ください。
【2022年の主な雇用・労働分野の法改正】
今年施行される改正法では、パワハラ防止のための措置の義務化が中小企業にも適用(4月)男性の育児休業取得を推進する育児休業制度を変更(4月、10月)など大きな制度変更もあります。改正に伴い事業所として準備をしておくことも必要です。
(主な改正一覧表)
<2022年1月1日施行>
健康保険法等 傷病手当金制度の見直し
・傷病手当金支給日数の通算化
・任意継続制度〜保険料基準見直し、任意脱退が可能に
雇用保険法 高年齢被保険者の特例(加入要件)
・65歳以上、2事業所で週20時間以上働いている人の加入可に
<2022年4月1日施行>
育児介護休業法 育児休業等の個別周知義務化
・妊娠・出産を申し出た労働者への説明と意向確認の義務
・取得しやすい雇用環境整備
・有期雇用労働者取得要件緩和
女性活躍推進法 一般事業主行動計画の策定義務
・策定、周知公表、届出
総合推進法 パワハラ防止措置の義務
・厚労省「指針」に沿って体制整備
・相談窓口の設置、周知、研修等の実施
<2022年10月1日施行>
健保法、厚年法 社会保険の適用拡大
・特定事業所、101人以上の事業所では週20時間以上
健保法、厚年法 育児休業中の保険料免除見直し
・月末が育休期間+2週間以上取得
・1月超の育休取得者に限り賞与保険料を免除
育児介護休業法 出生時育児休業制度の創設
・生後8週間以内に4週間まで
・分割取得2回まで
・労使協定で一部就業可能に
育児休業給付金の創設
・出生時育休取得者に給付
有期雇用労働者への対応
・「引き続き1年以上」要件廃止
(2022年1月 社会保険労務士 赤木一成)