これって、パワハラ? -Part 3-
Part1、Part2でパワーハラスメント(以下、パワハラと言います)の要件やパワハラにならない業務上の指導について解説してきました。今回は、どのような行為がパワハラになるのか、具体的に見ていきます。
パワハラ6つの行為類型
具体的な行為として、次の6つの類型(パターン)があるとされています。
(厚生労働省「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」平成30年3月)
- 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
- 業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
一つずつ見ていきましょう。
身体的な攻撃
暴行・傷害は、立派な犯罪です。(刑法208条、204条)
職場内で、こうした身体的な攻撃は絶対に起こしてはいけません。
ただし、業務上の指導中に激昂して暴れ出した従業員を制止するために腕を掴んだなどの場合には、違法とならないケースもあります。
精神的な攻撃
脅迫はもちろんですが、名誉毀損・侮辱も犯罪となる場合があります。(刑法)
言葉による暴力・精神的な攻撃は、職場内で起こりやすく、ハラスメントだと認識されずに横行している場合もあります。どのような言動がパワハラ・違法行為となるのか、過去の裁判事例からみてみましょう。
<違法となる例>
- 部下を叱責する際に、「バカやろう」「給料泥棒」などと言う。また、配偶者や親を引き合いに出して「こんなに仕事ができないのは親のせいだ」「よくこんなやつと結婚したな」などと言う。
- 作業の指示に従わなかった派遣社員に対して、「殺すぞ」と発言した。
- 部下を叱責する際に「そんなことくらいアホでも小学生でもわかるやろ」などと言う。
- 職場に「この者とは一緒に勤務したくありません!/○○課一同」と書かれた被害者の顔写真付きポスターを掲示した。
<違法とならない例>
- 遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた従業員に対し、再三注意しても改善されないため、強く注意した。
- 上司が部下に対して強く叱責したが、その部下が反発するばかりで自らの行いや態度を改めようとしなかった一連の経緯から、違法とまでは言えない。
※部下の指導では、部下の態度・対応によっては繰り返し指導する必要があり、その状況により判断が分かれます。
人間関係からの切り離し
人間は一人では生きていけない社会的な動物です。自ら望まない限り、「村八分」など他の人たちから切り離されるのは辛いですよね。それが1日のうち多くの時間を過ごす職場で行われたとすると、精神的苦痛を感じるのではないでしょうか?
職場における人間関係の切り離しの例としては以下のようなことが挙げられます。
- あいさつをしても無視され、会話もしてくれなくなった
- 私の仕事を手伝わないと、他の社員と申し合わせがされた
- 忘年会の案内が、私にだけこない。社員旅行参加を拒否された。
- 社内の回覧物を回してくれない、情報共有されない
- 転勤を断ったところ、仕事を与えず、「隔離部屋」に移された
この人間関係の切り離しは、上司から部下という関係だけでなく、社内いじめなど同僚間でも起こり得るので、注意が必要です。また、社会的に問題となった大手メーカーなどの「追い出し部屋」など、組織的に行われる場合もあります。
過大な要求
ある時、とても一人では処理できないような業務をいきなり任されたら、途方にくれてしまいますよね。それでも業務命令なら取り組まないわけにはいかない。しかし、どうも“私だけ”に命令されているようだ… 。それは、パワハラと言えるかもしれません。
- 終業間近に大量の書類を渡され、「明朝の会議に間に合うよう報告書を作成しろ」と業務命令を出され、深夜まで残業して処理に当たった
- 休日出勤しても処理できないような大量の業務を命じられた
- 不必要と思える細かいデータ分析資料を作るよう指示され、長時間作業を強いられた
- とても一人ではできないような企画・提案づくりを強要され、土日返上で数週間働き続けた
- 合理的な理由もないのに、提案書を何度も書き直させられ、最終的には廃棄された
業務量が増え長時間労働を強いられると、ハラスメントというだけでなく、メンタル不調の原因ともなります。本来、業務量の調整と人員体制確保は企業側の責任で行うべきものです。やむを得ず集中して業務処理を行わざるを得なかったとしても、従業員の健康に十分配慮した上で、より適正に業務を配分して行う必要があります。メンタル不調などを起こした場合、企業に対して「安全配慮義務」違反を問われる場合もあります。企業としては、こうした現場の状況を把握しておくことも重要です。
過小な要求
働く人にとって仕事のやりがい・充実感を感じるのは、自身の特性と能力を活かした仕事ができ、成果をあげることができた時ではないでしょうか。経験や能力を活かすことができない、軽微な仕事しか与えない、仕事を奪う行為は、その人の誇りを傷つけ、人格権を否定するものです。
- 看護師としての仕事を与えず、事務仕事を時折与えるだけだった
- 本人に問題がないのに営業から倉庫へ配置転換し、降格させ賃金を2分の1とした
- 退職勧奨に応じなかった技術開発部長を現場の作業員に配転した
個の侵害
職場では、個人的な交流やある程度家庭の事情を知ってもらうことも必要になってきます。お互いの信頼関係を超えて、必要以上にプライバシーに踏み込まれたり、侵害されたりする行為はパワハラとなります。
- 年休を取ろうとしたら、上司から取得の目的をこと細かく質問され、認めてもらえなかった
- 同僚から、休日の予定を執拗に訊かれ、ロッカーやバッグの中を覗かれた
- 異性との交際について、上司から「あいつは危険人物だ」と誹謗中傷された
こうした行為の中には、本人がパワハラだと認識せず行っているものもあります。業務上の指導や職場内の人間関係がうまくいくためには、自身の言動が「相手にはどう受け止められているか」と振り返ってみることも必要です。
また、企業としてはハラスメントに関する啓発を繰り返し行っていくことが求められます。
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