働き方改革関連法〜年次有給休暇の取得義務化スタート
昨年成立した「働き方改革関連法」中で「年5日間以上の年次有給休暇(以下、「年休」と言います)時季指定義務化は、企業の規模に関係なくこの4月1日(2019年)から施行となります。従業員の年休取得状況の把握、「5日以上取得させる」対策や取得状況管理簿の整備など準備が必要です。罰則規定もありますので、きちん制度を整えておきたいものです。
年休時季指定義務化〜労働基準法の改正〜の概要
労働者の心身リフレッシュを目的に、年休を毎年一定日数以上取得させることが事業者に義務付けられます。背景には、長時間の時間外労働の多い労働者は年休消化率が低いという相関関係がわかってきたこと、先進諸外国に比べて年休消化率が低いことなどがあります。
2019年4月1日以降に付与された年次有給休暇が10日以上ある従業員に対して、1年間で休暇を5日以上取得させることが事業主に義務づけられます。また、年休の取得状況を記録した管理簿の作成が求められ、3年間の保存が義務付けられます。対象労働者の年休取得が年間5日に満たなかった場合、労働者一人に対して30万円以下の罰金が使用者に課せられます。
時季指定/計画付与/自ら取得
年休は本来、労働者が自由に使える有給休暇です。労働者自身が休暇を取る日を決めて申請し、業務上支障があるなどの事情で事業主が日程の変更させる(これを「時季変更権」といいます)ことがない限り取得できます。しかし、今回の改正ではなかなか年休を取得しない労働者に対して事業主が時季を指定して取得させる(時季指定)、あるいは年間の労働カレンダーなどであらかじめ計画して年次有給休暇を取得させる(計画付与)などして休暇を取らせる制度となります。
必要な時季指定日数には、「労働者自身が希望して取得した」場合と「使用者があらかじめ計画的付与をした」日数は控除されます。
(例)
労働者自らが5日取得した場合 →使用者による時季指定は不要
労働者自ら3日取得した橋 →使用者による時季指定2日
労働者自ら1日取得+計画付与2日 →使用者による時季指定2日
年休付与日が法律と異なる場合は「付与後1年以内」が基本
年休は、法律上「入社してから半年後に10日付与し、以後1年ごとに付与する日数を増やす」仕組みになっています。4月1日入社なら、年休は10月1日に付与します。それから1年間=翌年の9月30日までに5日間以上の年休取得をしたかどうかを見ます。
しかし一人ひとり入社日が異なると事務が煩雑になるため、企業によっては「4月と10月に繰り上げて付与する」「2年目から全社員4月に繰り上げて付与する」といったルールを定めているケースがあります。
(例) 年休5日以上取得する期間・期限
・4月1日入社の社員に半年繰り上げて4月1日に10日付与する →4月1日より1年間
・入社の年は半年後の10月1日、2年目以降は4月1日に付与する
→1年目10月1日より1年間、2年目4月1日より1年間
=1年目10月1日より翌々年3月31日の間に7.5日以上の取得が必要
※厚労省もパンフレットがわかりやすいのでそちらをご参照ください。
(最下段にリンクを貼ってあります)
改正のポイント
- 全対象者(10日以上の年休付与者)の年休取得状況を把握し、管理簿をつけることが必要です。書式の指定はありませんが、3年間の保存義務があります。
- 取得日数が足りない労働者に対しては、期限までに5日取得させるため時季を指定して休ませなければなりません。この場合、休暇の日程については当該労働者の意見を尊重すること、とされています。
- あらかじめ年間スケジュールで年休取得を決める計画付与も有効です。この場合、労使協定により取得時季を定めておく必要があります。
- 管理監督者も対象となりますので、年休取得状況の把握と取得への指導が求められます。
- 達成できなかった時、労働者一人当たり×30万円以下の罰金が事業主に課せられます。
事業者がすべきこと
1、年休の指定付与について就業規則に記載する
(規定例)
第○条 1項~4項(略)(※)厚生労働省HPで公開しているモデル就業規則参照
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかか わらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社 が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただ し、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得し た日数分を5日から控除するものとする。
2、個人別年次有給休暇取得状況の管理〜管理簿をつけ3年間保存
書式の指定はありませんが、以下のような項目があれば管理しやすいでしょう。
・氏名
・採用年月日
・休付与日・日数
・年休取得日および日数
・年休残日数および時季指定の有無
⬇️年休管理簿の例
3、対象となる労働者への時季指定(提案)と休暇指定
年休の取得状況を3月に一回など定期的に点検し、期限内に取得できるよう余裕をもって時季指定の協議を始めるのがよいでしょう。対象となる労働者の意見を尊重しつつ、指定する休暇日を決め、指示し取得させます。
4、計画付与の実施
労働組合または労働者代表との協定書で取得時期を定めた上で、事業場または部署単位で一斉に付与、班単位で交代制で付与または個人別に休暇の日を指定します。年間の就業カレンダーなどで明示しておくとよいでしょう。
ただし、この場合は各労働者に対して自由に所得できる日数5日間を残しておかなければなりません。
例:付与された年休日数 16日の場合=計画付与は11日まで。
5、人員確保とシフト管理(部門長への指導)
年休取得が進んでも現場がきちんと回るよう、現状を分析して人員確保や仕組みの変更を行います。また、現場の無理解から休ませず働かせてしまった、ということがないように部門長にも法改正の内容と仕組みについて周知していくことが必要です。
働き方改革は休み方改革
働き方改革というと長時間労働対策が思い浮かぶ方も多いと思います。もちろん過労死ラインを超えるような長時間労働があってはなりませんし、生産性をあげて労働時間自体を短くしていくことが大切です。
同時に、心身のリフレッシュには上手な休暇の取り方、活かし方も大切です。今回の法改正で義務化されたことを契機に、休暇を取りやすい職場風土づくりや計画的に休暇をとりワークライフバランスをとっていこう、という社員の意識づくりを進めていきましょう。会社の活性化と健康経営の着実な一歩になると思います。
参考情報〜ぜひごらんください。
1、厚生労働省 働き方改革支援サイト
2、年次有給休暇時季指定義務化に関するパンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf
「自分らしく働ける組織=ティール組織」が見えてきた
「働く目的は、自分や家族が幸せになること、と言っていいんだな!」
私の頭の中にぐるぐると巡っていた考えを少し整理した時に浮かんだ言葉です。
それにしても濃厚な二日間でした。
1月19日〜20日に京都市宇多野ユースホステルで開催された「職場に活かす『ティール組織』〜変化の旅をはじめるための積読消化合宿〜」(Playing Facilitator Lab.の主催)に参加しました。ABD(アクティブ・ブック・ダイアローグ)という手法で分担して本を読み、参加者で共有しながら理解していくというもので、今回のテーマは「ティール組織」(英知出版2018)。ファシリテーターは「ティール組織」の解説者で場とつながりラボhome’s Viの代表理事の嘉村賢州さんで参加者は約10名でした。
2日間で読んだ本は、実に8冊!
「ティール組織」(部分)
「イラスト解説・ティール組織」
「すいません、ほぼ日経営。」
「英雄の旅」(部分)
「『いい会社』のよきリーダーが大切にしている7つのこと」
「最高難関のリーダーシップ」(アウトライン)
「トランジション・マネジメント」(アウトライン)
「ディープ・チェンジ」(アウトライン)
合宿ということで時間はたくさんあったとはいうものの、この情報量はすごい! 脳の力を相当使いましたが、意外と爽快でした。
アクティブブックダイアローグの手順
①1冊の本を分担して(該当箇所を引き裂いて!)読み、その要約・ポイントとなるところをB5の紙で6枚に書き出す。
②壁に本の構成順に張り出して、担当した人が順番に発表する「プレゼンリレー」を行う。
③質疑応答したあと、ダイアローグで感じたことなどを共有していく。
この手法の良いところは、どんなに分厚い本でも分担して読み、共有することで本の内容を理解できること、ダイアローグを通して受け止め方の違いや自身で気づかなかった点に気づくことができるといった点です。何より「積ん読」状態を脱出できます。(笑)
今回参加してみて、ワークショップとしても優れていると感じました。一つのテーマで深く読んで、一堂に会して共有することでそのグループ・メンバーに共通認識ができます。もし同じ職場のメンバーで行ったら、仕事の改善など次のアクションにつながりやすいのではないでしょうか。
※アクティブ・ブック・ダイアローグの詳細は、下記を参照してください。
アクティブ・ブック・ダイアローグ協会
「ティール組織」とは
ここのところあちこちで話題になっている「ティール組織」ですが、これはアメリカのコンサルタントだったフレデリック・ラルー氏が、相談にやってくる経営者もそこで働く従業員も“誰も幸せそうではない”ことに疑問をもち、世界中の成功している企業・団体を訪ねてインタビューし、その共通点を整理し提唱した新しい概念の組織論です。上下関係も打ち上げ目標も予算もないのに大きな成果を上げている組織が世界中に現れている!
ラルー氏は、著書で組織の歴史的変遷について類型化しその特徴を色で表しました。 赤=衝動型〜力による支配
琥珀=順応型〜軍隊など階層的ピラミッドをもつ組織
オレンジ=達成型〜上場企業や銀行など目標達成を軸にした組織
緑=多元型〜大きな家族のような組織
ティール(青緑)=進化型と表現しました。
3つのブレイクスルー
組織が進化しティール型になるときの突破口(組織的特徴)を3つ上げています。それぞれ広く深い意味がありますが、ここではポイントだけ紹介します。
・自主経営(セルフマネジメント)
〜組織に役割はあるが役職はなく、チームをベースにした個々人がその使命を果たすために働きます。
・全体性(ホールネス)
〜職場で「仕事用の仮面」をかぶることなく、自分らしく働ける、自身や他人との全体性の回復をもとめています。
・進化する存在目的
〜メンバーにとって組織の存在目的を理解し自己の使命を認識することが大切です。その存在目的も社会の変化に応じて進化することが求められます。
「ティール組織」については、こちらをご覧ください。
今回の学び
合宿の最後に、壁に張り出された8冊の本の要約をあらためて見て、自分なりに何が学べたのかを考える時間がありました。その時のノートをもとにまとめてみます。
- オランダの地域看護組織「ビュートゾルフ」の実践はとても素晴らしい。目指す組織の例がある。世界や日本でもこれからどんどん出てくるだろう。
- もっとも心に残ったのは「全体性(ホールネス)」、これは人間としての全体性を取り戻すこと。つまり、人間らしく働ける組織を目指していくことなのだ。
- ティール組織は、「常に進化する目的」を持ち、更新し続ける。
- 自主経営(セルフマネジメント)〜先行例の多くはチームによる経営が行われている。まずは人間。個人と組織が目的達成のため知恵と力を出しあっている。
⬛️「すいません、ほぼ日経営。」
- この会社は、“自分が役立つ喜び”を得て「やりたいことの組み合わせ」で運営されている会社なのだ。
- 仕事のスタンスは「誠実と貢献」。誠実かどうかは自分自身で測れる。
- 安心して働けて、幸せを追求できる環境を作る、これが社長の役割。じぶんのリーダーはじぶんなのだから。
⬛️「『いい会社』のよきリーダーが大切にしている7つのこと」
- 数字よりも人を大切に。仕事はスピードより順番。
- 仕事に感情を忘れるな〜心理的安全性の確保
⬛️「トランジション・マネジメント」
⬛️まとめ
人が働く目的=自身と家族の幸せ
仕事の幸せ=顧客に対する誠実と貢献によって
組織の変革〜進化する組織へ
自主経営/人間らしさを取り戻す(ホールネス)/常に進化する目的
Teal組織への道=目的ではないが、そこに到達できる
変化への対応=トランジションを乗り越える
「ティール組織」は600ページに及ぶ大著で、なかなかとっつきにくいものです。しかし、ABDによる勉強会やワークショップは各地で開催されていて、徐々にその考え方が広がっています。本文も事例紹介や各論の解説などは思わず引き込まれてしまうとこも少なからずあります。何より進化した組織の向こうに、労働における人間らしさの回復という姿を垣間見ることができたのが、私にとっては最大の成果でした。
……学習は継続していきます(^o^)
働き方改革関連法の解説 1 準備は進んでいますか?
「働き方改革? うちには関係ない。それどころじゃないよ!」
とお考えの社長さん、準備しないと大変ですよ!
本年6月、国会で「働き方改革関連法」が成立しました。労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法など関連する法律が一括提案され、一部修正の上で成立しました。大企業ではその多くが2019年4月1日施行となっていますが、法律や内容、企業の規模によって施行期日が異なるので、よく確かめて準備する必要があります。
働き方改革関連法の概要
今回の働き方改革の主な目的は、少子高齢化・人口減少が進む中で、①長時間労働をなくし労働生産性を高めていく②働く形態による賃金格差をなくす、などを通して多様な働き方ができるよう制度を作るという点です。これに沿って法律改正がされ、実施の具体的な基準・制度づくりの一部は労働政策審議会・分科会などで検討されています。
以下にその概要を見ていきます。
1、長時間労働対策、労働時間制度見直し〜労働基準法、労働安全衛生法の改正
(1)残業時間の上限規制〜罰則化
- 労働基準法では、使用者が労働者を1日8時間・週40時間以上働かせることを禁じています。(例外あり) しかし第36条で、時間外労働・休日出勤について、労使で協定を結べば時間外労働させることが可能としています。(三六協定・さぶろくきょうてい) これまではこの三六協定の特別条項を付した協定での年間の時間外労働の時間数は上限がありませんでした。いわゆる「青天井」の状態でした。
- 今回の改正で、ここに上限が設定されました。月45時間・年360時間を原則として特別な事情がある場合に①年間720時間以内②複数月平均80時間以内③月100時間未満(②③は休日労働含む)までと規制されます。これに違反すると使用者に罰則が課せられます。
- 大企業は2019年4月より、中小企業は2020年4月より施行されます。ただし、自動車運転、建設業、医師、佐藤製造業、新技術・新商品開発の業務については適用猶予・除外されます。
(2)「勤務間インターバル」制度の導入促進
- 1日の勤務終了後、翌日の出勤までの間に一定の休息時間(インターバル)を設ける制度です。労働者に十分な生活時間や睡眠時間を確保しようというものです。休息時間については、具体的な数値は示されていませんが、10〜11時間とするのが一般的のようです。こちらは企業への努力義務なので、罰則はありません。
(3)年5日間の年次有給休暇の取得(企業に義務付け)
- 労働者の希望を聞き、年次有給休暇の時季指定をして取得されることが使用者に義務付けられます。
- 年休付与から1年以内に5日以上取得できるよう、個別の対応が必要になります。
- 年次有給休暇の管理簿を作成し、保管(3年間の義務)する必要があります。
- 取得させることができなかった場合には使用者に対する罰則があります。
- 企業の大小に関わらず、2019年4月1日より施行されます。
(4)月60時間超の残業の割増賃金引き上げ
- 月60時間を超える残業は割増賃金率を引き上げます。
- すでに大企業は実施済みですが、中小企業も実施義務付けられます。
(5)労働時間の客観的な把握(企業に義務付け)
- 労働時間の実態を客観的に把握することが義務付けされます。
- 健康管理の観点から、裁量労働制の適用者や管理監督者など全ての労働者の労働時間が客観的にわかる方法で把握することが義務付けられます。
- 把握した実態に基づき医師による面接指導など健康確保措置を講じる必要があります。
(6)「フレックスタイム制」の拡充
- フレックスタイム制度は、現状は「一月以内に清算する」となっていますが、「3ヶ月以内で清算」に緩和されます。
- 適用される労働者は、3ヶ月のうちで所定労働時間勤務となるよう調整できるようになります。
- 施行は2019年4月1日です。
(7)「高度プロフェッショナル制度」を創設
- 全く新しい制度で、労働時間に関係なく成果・実績などで処遇を図る制度です。
- 高い専門性のある職種で一定の年収が確保され、国が示す健康確保措置を実施した場合に適用されます。
- 本人の希望を確認することも求められます。
- 制度の詳細は労働政策審議会のワーキングで検討されています。→制度が固まれば告示されます。
- 施行は2019年4月1日です。
(8)産業医・産業保健機能の強化
- 産業医の活動環境整備〜事業者から産業医への情報提供を充実・強化させる。産業医と衛生委員会との関係強化をはかる。
- 労働者に対する健康相談の体制整備、労働者の健康情報の適正取り扱い〜産業医による健康相談を強化。事業者による労働者の健康情報の適正取り扱いの推進。
2、働き同一労働同一賃金の実現〜パート労働法、労働契約法、労働者派遣方の改正
今回の一連の改正に伴い、これまでの通称・パート労働法を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善に関する法律」と改められます。フルタイムだけど「嘱託社員」「契約社員」などの正規社員とことなる契約形態の労働者も対象となります。また、労働契約法で規定されていた有期雇用契約に関わる措置については削除されます。
(1)不合理な待遇差を解消するための規定の整備
- 同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期契約、短時間労働者)との不合理な差をもつ待遇を禁止し、個々の待遇ごとに性質・目的に照らして判断し、不適切な場合は是正が求められます。
- 判断の基準は、①職務の内容が異なるのかどうか②職務内容・配置の変更範囲(例えば転勤の有無)③その他の事情を考慮して判断するとしています。
- 例えば、通勤交通費の支給基準、精勤手当、慶弔休暇など、職務内容や雇用形態で支給額が異なる場合などに問題となります。
- 施行期日は、大企業は2020年4月1日、中小企業は2021年4月1日となります。以下、(2)(3)も同じです。
(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
(3)行政による履行確保措置および裁判外紛争手続き
- 上記(1)(2)に関して労使で争いがあった場合に、行政による事業主への指導や紛争解決手段(ADR)を整備します。
厚生労働省のホームページ
「働き方改革」特集ページです。
ご参照ください。
シリーズで解説〜次回は「年次有給休暇時季指定義務」について
何回かのシリーズで関連法の内容と経営者や実務担当者が留意すべき点について解説していきます。法の施行、順次出される厚生労働省令や指針などによって具体的なルールが決まっていくものもありますので、分かり次第順次追加していきます。
次回は、年次有給休暇時季指定義務化です。施行が迫っています。実務上の準備も必要です!
「日本一幸せな従業員を作る」って、どういうこと?
「このホテルにぜひ泊まってみたい!」
今は叶わないことだけど、映画を観て思ったことでした。
大阪での自主上映会で観たその映画は「日本一幸せな従業員を作る〜ホテルアソシア名古屋ターミナルの挑戦〜」でした。30人ほどの小規模な上映会でしたが、おそらく全員がどこかのシーンで涙したと思います。映画の後の懇親会でも、「どこで泣いたのか泣き所が人によって違うね〜」と盛り上がったくらいに、泣かせどころ満載の映画でした。
ホテル経営再建方針
ホテルアソシア名古屋ターミナル(以下、アソシアと言います)は、1974年創業で名古屋駅北側に隣接するホテルでしたが、再開発により2010年9月で閉館しました。映画は閉館する前の10年間にこのホテルに起こった奇跡を、ドキュメンタリーとして描いています。
2000年、アソシアは4年連続で赤字となり、資本金を上回る累積欠損を計上していました。そこに、柴田秋雄さんがゼネラルマネージャー(総支配人。以下、GMと言います)として着任します。柴田さんは国鉄、JR東海で労働組合役員経験した人で、いわば畑違いの登用でした。経営再建を任された柴田さんが経営再建にあたって目標としたのは「従業員を幸せにする」だったのです。
従業員を幸せにする取り組み
彼が最初にとりかかったのは、人員整理やコストカットではなく、社員食堂の改善でした。社員食堂の板前さんたちととことん話し、大きなヒノキのまな板と包丁をプレゼント。「これで従業員たちにうまいもんを食べさせてやってほしい!」と頼み込んだそうです。そして椅子テーブルを新しいものに取り替えました。出される料理が美味しくなり、綺麗になった社員食堂に従業員が集まってくるようになったのです。そこで仕事の話をしたり、コミュニケーションがとれるようになってくると、職場に笑顔が戻ってきました。
これをきっかけに従業員に対する様々な働きかけ(人材への投資)を行なっていきます。
・全従業員を東京の一流ホテルの見学に行かせる
・「生きることは?」などをテーマにした研修会の継続実施
・パート、アルバイトを含む全従業員を対象とした表彰制度をスタート
・一人ひとりへの感謝状は手書きで書く
・毎年末に従業員の家族を招待する感謝の会を開く
・従業員全員の誕生日には一流の料理を出し、GM自ら一緒にご飯を食べる
などなど
従業員の変化と顧客の支持
こうした取り組みを通じて従業員も変化していきます。駅前のタクシー乗り場で胸にホテル名の入ったプラカードを下げて、タクシーに乗ろうとする人に「うちのホテルに泊まってください」と営業活動をする。自発的にうまれたサークル活動でお客様に向けた舞踊発表会を開く……
決算見通しが赤字になりそうだということがわかると、従業員からはとんでもない要望が出されました。労働組合が従業員の給与の1割削減を提案してきたのです。従業員自らの給料を減らしてでも黒字を達成してほしいという前代未聞の要求でした。会社は一旦断りましたが、交渉の末に提案を受け入れました。その結果、その年度は黒字決算を出すことができました。以後、閉館まで黒字経営を続けます。
この時すでに、アソシアは会社やGMによって運営されるホテルから、会社と従業員が一体となって運営されるホテルに変わっていたのです。
明るい笑顔で自信と誇りを持って仕事をする従業員のいるホテルが、顧客の支持を得ないはずがありません。ホテルもレストランも常連客が増え、中には従業員に「この前お世話になったわね」とお土産を持ってきてくれる人まで現れました。アソシアはいつしか稼働率90%を超える、名古屋で一番人気の高いホテルになっていったのです。
映画の中の名言
映画の中で出てきた「名言」をご紹介します。泣かせどころでもあります。
- GM「従業員に言うんです。僕は『お前』を見とる。『お前ら』じゃないんだ。一人ひとりを見ていると言っているんです」「僕はここで大きな家族を作ってきた」
- Aさん「お客様から感謝されることがとても嬉しい。最上のサービスのあり方というものがあのどん底をしっているからこそわかったのだと思います」
- Bさん「レストランで食中毒を出したことがあります。届出が必要な人数ではなかったけれど、自ら公表し、ご利用いただいたお客様全員に対してお詫びのお手紙を出しました。従業員が手分けをして一晩で書きました。随分議論をしましたが、自分たちが一番大事にすべきなのは『正直である事』だという結論でした」
- Cさん「私にとってこのホテルは「学校」でした。18の時からたくさんのことを学びました。楽しかったです。学んだことがこれから働く新しいホテルでも活かせます」
従業員の幸せとは?
「顧客満足は従業員満足があって初めて得られる」と言います。これは真理だとおもいますが、アソシアは「満足」でなく従業員の「幸せ」実現を目指しました。
では、従業員=働く人の幸せとはなんでしょうか?
私なりに考えてみたことは、以下のような点です。
- ある程度の収入が得られ衣食住など生活の心配がない。
- 会社の経営が安定し倒産などの不安がない。
- 共に働く仲間を信頼できる。仕事について家族からも支持される。
- 企業や仲間から認められ、尊敬される。
- 自分の仕事を通して顧客の満足・幸せに貢献したい。自分の仕事に誇りを持ち、達成感を感じられる。社会に役立っていると感じられる。
これはアソシアの実践の中で全て実現されていたのです!
また、逆から見ると「マズローの5段階欲求」に似ていますね。
そう第5段階の「自己実現欲求」を満たしていることになります。
全経営者にぜひ観て欲しい映画
経営再建に取り組んできたGM・柴田秋雄さんとアソシアに働く人たちは、どん底から這い上がる厳しい実践の中で、こうした「従業員の幸せ」を獲得してきました。簡単なことではありませんが、経営者が企業経営のあり方、従業員に対する見方を転換し、当の従業員を巻き込んで実践を重ねれば、到達できると思います。企業の経営者(特に中小企業の経営者)の方にはぜひ観ていただきたい映画です。
映画の自主上映については、下記をご覧ください。
NPO法人ハートオブミラクル
柴田秋雄さんのインタビュー記事、こちらが参考になります
GLOBIS知見録
マズロー5段階欲求説について
河野裕之氏「モチベーションアップの法則」より
障がい者雇用は誰のための施策か?
「評価制度は運用されているんですか?」
「はい。基本的には親会社と同じ制度です。能力評価と目標管理制度を運用しています」
工場見学の後の質疑応答の際のやりとりだ。
私はこのやりとりに驚いた。ここでは個人ごとの目標管理の人事制度が運用されているんだ!
「ここ」とはオムロングループの特例子会社「オムロン京都太陽株式会社」だ。オムロン電子などの部品製造をおこなう会社で、従業員約160名、うち障がい者が4分の3を占める。身体障がい社、知的障がい者、精神障がい者と健常者が一緒に働いている。
8月下旬、企業の人事担当者や行政職員、キャリアコンサルタントなどが加入する「京都微助っ人研究会」という実践的に学び合う会の夏の例会として、このオムロン京都太陽の家株式会社の見学が行われ、参加したので紹介したい。
オムロン太陽の歴史は障がい者自立支援の歴史
オムロン京都太陽社の歴史は、日本の障がい者自立支援、障がい者スポーツの歴史に繋がっている。
1964年の東京パラリンピックを成功させた功労者であり当時の選手団長を務めた中村裕(なかむら ゆたか)医師が障がい者の自立をめざして作ったのが社会福祉法人「太陽の家」(大分市)だ。中村は、当時障がい者の社会参加に否定的だった日本社会の状況に憂慮し、何ができるのかを思案していた。そんな時、留学先であるイギリスのストクマンデビル病院のグッドマン博士の言葉「失ったものを数えるんじゃない、残されたものを最大限活かせ!」に出会い、その後日本での活動の原点となった。障がい者の自立のためにスポーツを取り入れ、仕事を通じて社会参加することを念じ様々な困難があるなかで取り組んでいた。
オリンピックの翌年に太陽の家をスタートさせたが、会社の経営は厳しかった。障がい者の会社に仕事を依頼する企業がなかったからだ。中村の訴えに共鳴し協力を申し出たのは立石電気株式会社の創業者・立石一真(たていしかずま)だった。
立石が出した条件は共同出資による会社設立で、共同して障がい者自立のための会社を運営しようということだった。そうして1972年に設立されたのがオムロン太陽株式会社(大分市)であり、1985年にはオムロンの地元京都にもオムロン京都太陽の家株式会社(京都市)を設立した。オムロンは今でこそ大企業だが、当時はまだまだ中堅企業で、一大決心だったと言える。オムロン太陽の家は様々な工夫や両者の協力の下、初年度から黒字経営を続けているという。
先日、NHKで中村裕を主人公とした特別ドラマ「太陽を愛した人」が放映され、反響が広がった。9月1日に再放送されるということなので、中村の活動についてはそちらをご覧いただきたい。
NHKドラマ 「太陽を愛した人」 再放送→9月1日
オムロン太陽を支える2者のミッション
オムロン太陽社は、製品づくりや技術についてはオムロン株式会社が、障がい者の生活福祉面は太陽の家が、それぞれスタッフを配置して支えている。互いの企業理念を尊重し活かして、共同出資した合弁会社の事業を成立させている。事業が成立しているということは、障がい者にも給料が支払われ、障害者は税金も納めているということである。また、製品をきちんと作り世に送り出すということで顧客にも貢献している。こうして、障がい者の社会参加・自立、企業の社会貢献を両立させているのだ。
オムロン京都太陽株式会社 3つの使命
1、職能的重度障がい者の雇用機会を創出する
2、事業を通じて顧客満足と収益を確保する
3、障がい者雇用ノウハウを広く社会に提供する
オムロングループの理念
「社憲」〜会社の憲法
われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう
「私たちが大切にする価値観」
ソーシャルニーズの創造
絶えざるチャレンジ
人間性の尊重
社会福祉法人太陽の家の理念
理念
No Charity, but a Chance! (保護ではなく、機会を!)
人間としての尊厳が保たれる社会の実現
基本方針
障がい者に働く機会を提供します
自立生活ができるよう支援します
地域と国際社会に貢献します
社会のルールを遵守します
太陽の家の理念
2人の創業者の写真を掲げ、思いを今に伝える工場玄関
実際の取り組み
障がい者を甘やかせず、その人の能力を発揮できる環境や技術や制度を作り、健常者と同じく扱う。こうしたスタンスから、障がい者に対しても目標管理制度(個人ごとに仕事に対する目標を考えさせ設定して取り組み、期末にその達成状況を評価し、次の目標を考え設定していく制度)や給与に連動した能力評価を行なっている。また、グループ活動を推進し、業務改善を進めている。労働者から出される提案件数は、年数千件にも及ぶという。
オムロン京都太陽での取り組み
能力開発〜知識、能力開発ワークショップの実施など
業務改善〜治具改善、半自動機械の開発で手元化/スキルレス化/分業化
改善風土の醸成〜徹底した3S(整理/整頓/清掃)
生活健康支援〜個人別支援計画、支援員によるサポート
工場を見学して、この取り組みが徹底していることを痛感した。工場内の段差や通路幅、器具の配置など障がい者が働きやすいように設計・配置されている。作業の見える化も徹底され、電子部品の製造状況も一目でわかるように工夫されている。一つ一つの作業も、障がい者の状況に合わせてラインが組まれ、障害の状況に合わせた補助器具が設置されている。例えば、一つの製品の組み立てで右手が不自由な人は左側の部品を、左手の不自由な人は右側の部品を差し込み組み立てるようにラインがくまれている。また、たくさんの部品を扱う組み立てでは、知的障がいの方が手順を間違わないように、組み立てる順番に部品トレイのランプがつくようになっている。こうした工夫が随所に行われており、また3Sも徹底されていて、作業しやすい環境が維持されている。障がい者の方々も集中して作業に当たっておられたことに見学者の中から驚きの声も上がっていた。
オムロン京都太陽株式会社のホームページ
<バーチャル工場見学>もできる。
障がい者雇用についての考え方を改める時では?
私はこの見学を通して大いに反省させられた。企業で人事を担当していたとき、障害者雇用というと法定の雇用率をどうクリアするのかという観点でしか捉えていなかった。「流通・小売という我々の業界・業種では障がい者の働ける環境は少ない」と勝手に思い込んでいたのだ。オムロンでは、企業ミッションにもともと人間性の尊重を謳い、そのために障がい者自立をミッションとする合弁会社を設立しているではないか。
今、企業経営者は大企業も中小企業も発想を変えて、障がい者の「残された能力を最大限活かす」ための仕事の創造や工夫改善に取り組むべきではないだろうか。解決すべき課題もたくさんあるが、今一度考えてみてほしい。考えてみて、オムロン太陽のような会社・現場を見学してみてほしい。障がい者が働きやすく成果をあげられる職場は、誰もが成果を上げることができる職場なのだから。多様性を生かした企業経営(ダイバーシティマネジメント)に通じる命題だ。
中央省庁の雇用水増し問題に触れて
そうした民間企業の取り組み・努力を裏切るように中央省庁の障がい者雇用率水増し問題が発覚した。障がい者雇用実績と報告していたが、実際の障がい者は約半数だという。民間に範を示すべき中央省庁だが、文書改ざんやセクハラなど何かと不祥事や問題噴出しているだけに、もういい加減にしてほしいと言いたい。しかし、早急に障がい者を雇用し、数字を合わせることはして欲しくない。障がい者の社会参加のチャンスを広げるための各省庁のミッションをもう一度考え直し、制度づくりや意識改革を進め、きちんとした計画を作って臨んでほしいと思う。
中央省庁、障がい者雇用水増し(日経記事)
精神障がい者の能力を活かすマネジメントの秘訣
「なるほど、そういうことか。当たり前のことをやるということなのだ」
先月、日本の人事部主催のHRカンファレンス2018(大阪)で特別講演「これからの管理職に必要な精神障がいのマネジメント・戦力化方法」を聞いて、感じたことだ。講師は、パーソルチャレンジ株式会社の佐藤謙介氏。人材サービスのパーソルホールディングスの特例子会社で、自社で障がい者雇用を行うだけでなく企業・団体への障がい者採用と雇用安定のコンサルティングなどを行なっている会社だ。いわば障がい者採用・雇用を専門とする会社である。
なので、講演タイトルにあるように精神障がい者の人材活用の特別な秘策があるのかと思って参加した。今年障がい者雇用率が改定され(2.2%)、同時に精神障がい者もその雇用対象とされた。このため、精神障がい者の採用と安定的な雇用=人材活用に多くの企業の関心が集まっている。
理想的な上司の部下へのアプローチ
講演ではまず「障がいある社員が活躍するためのマネジメント」として、パフォーマンスが上がらないスタッフへのアプローチとして「一般的な上司」と「理想的な上司」を対比して紹介し、精神障がい者の適切なマネジメントは可能だということを示した。
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一般的な上司
・もう一度やり方を教える
・できる人と入れ替える
・もっと簡単な仕事に変更する
・部下ができない分は自分で受け持つ
・諦める、叱る
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理想的な上司
・スタッフの得手不得手を分析する
・得意な業務に変更する
・数値で分析し、業務プロセスを改善する
・口頭指示ではなくマニュアルを作る
・相手の理解度に合わせて段階的に教育する
さあ、比べてみていかがだろうか? あなたはどっちにちかい?
上記は、「精神障がい者」へのアプローチではないことにご留意いただきたい。
仕事の属人化から、分業化への転換がカギ
オフィスのダイバシティマネージメント(多様な人々の能力を活かす経営)のキィは「属人化から分業化への転換」だという。オフィスの仕事は、放っておくとどんどん属人化する。その人しか知らない仕事の仕方、進め方やネットワークなどがオフィスにはいっぱいある。私自身も経験があるが、“自分がやらなきゃ”とか“人に頼むより自分でやった方が早い”とどんどん仕事を抱え込んだり、複雑化させたりしていないだろうか。自分以外の人からは、どんな仕事をどこまでやっているのか見えないので、サポートできないばかりか到達状況もわからない。ある日突然破綻する、といったことも。(もちろん成功することの方が多いのだろうけど)
これでは組織としての仕事にならないし、働き方改革や生産性向上には繋がらない。それどころかリスク管理もできなくなってしまう。
やっぱり、仕事の「見える化」が必要だ
佐藤氏は、属人化をさせないためには「見える化」をすることが大事だと説く。業務指導のあり方も、一方通行的な「教える」から転換が必要だ。業務マニュアルやチェックシートといった業務内容の見える化を行い、それに基づいて教え、自ら学ぶという「ドキュメント&教える+自分で学べる」仕組みが必要だ。こうすれば知識は業務マニュアル・チェックシートに集約され、業務ノウハウは会社に残っていく。見える化は、まずメモを書くことから始めると良いそうだ。作業の指示もできるだけメモを書いて説明する、会議の議事録も板書したものを写真に撮ると行ったところから始める。それらを手順書、マニュアルに整理していけばよい。
ん? 待てよ。この仕組みをつくるのって、何も精神障がい者に対するマネジメントとして特別なことでもなんでもないではないか?
そうなのだ。仕事・職務の分析し基準書やマニュアルに整理し、それに基づく役割分担をしていく、仕事も状況も見える化することは、職場の効率、生産性を上げる特効薬になるといっても過言ではない。
精神障がいの特徴
一方、精神障がい者の特徴を理解した上でのマネジメントも重要だ。いちばんの特徴は「不安」が大きいということなのだそうだ。自分でコントロールできそうにないこと不安はストレスにつながり「メンタルダウン」を引き起こすことがある。不安が大きくなりストレスがたまり、体調不良、パニック、睡眠障害、うつ、業務ミスなどの症状を引き起こしてしまう。
主な症状
○身体症状:眠れない、疲れる、食欲がない、発熱・腹痛やめまい
○行動症状:遅刻・早退・欠勤が増える、ケアレスミスが多くなる、判断を間違う、集中色が低下するなど
○感情や思考に現れる症状:気が滅入る、やる気がない、イライラ、他責傾向(他人や病気のせいにする)など
障がい者の仕事上の特徴例
○障がいによりできないことがある(例:電話応対、接客など)
○口頭の指示だけだと理解することができない
○一度にたくさんの仕事を支持すると頭が混乱する
○ルール化・マニュアル化されていないことはできない
○月に数回遅刻、早退、欠勤が発生する
○わからないことがあっても質問しないで、そのまま進めてしまう
精神障がいの特徴を理解したマネジメントを
こうした精神障がいの特徴を理解した上でマネジメントすることが重要だと、佐藤氏は指摘する。個々の症状をケアするのではなく精神障がいの特徴を理解し、会社・組織としてマネジメントする体制、仕組み・予防策の構築が大切なのだ。
そうするとオフィス内にある「不安の素」を取り除いていくことが必要だ。その不安とは以下のようなものが挙げられる。
<仕事に関する不安>
・仕事の優先順位がわからない。
・誰の指示を聞けば良いのかわからない。
・指示が曖昧で「具体的な」作業内容がわからない
・作業手順がわかっていない
・自分の仕事の成果物が不確か
・仕事の期限が不明確、納期に間に合うかどうかわからない
<自分自身に関する不安>
・自分の役割やポジションに対する不安
・自分の作業能力に対する不安
・自分の評価、将来についての不安
メンタルの状態を見える化する
精神障がい者の健康、作業能力、ヒューマンスキルについてそれぞれ5段階のレベルに区分し、状態を観察しながら、今どのレベルにあるのかを判断する。その上で、そのレベルにあった仕事の与え方、指示の仕方を変えているという。
精神障がい者の能力が発揮でき、働きやすい職場に
こうした「オフィスの作業の見える化」「障がい者の状況の見える化」によって、精神障がい者にたいする適切なマネジメントを行うことによって、不安を取り除き(やわらげ)、その能力を発揮できるようにしているという。
障がい者の雇用は法律の義務付けにより積極的な採用が必要だが、その定着と能力発揮のための仕組みづくり、生きたマネジメントが欠かせない。まずは、現状のオフィスの中の仕事を見直して、「見える化」するところからはじめてみましょう。これはきっと、業務の無駄の発見にもつながり、障がい者に限らず働きやすい職場づくりの第1歩になるはずだ。
働き方改革法案の行方……
国会空転
現在国会では、森友・加計学園問題、財務省の文書改ざんや次官のセクハラ問題、防衛省の日報問題など行政を巡る疑惑や問題の発生で空転している状態です。新聞報道によれば、財務大臣の辞任要求や柳瀬元首相補佐官の証人喚問要求に与党が応じなかったため昨4月20日野党6党が国会審議を欠席し、今後の審議日程も定まっていないということです。政府が今国会の最重要法案と位置付ける「働き方改革関連法案」を審議する衆議院厚生労働委員会は、野党欠席のまま開会、審議を進め野党の質問時間を空費したとのことです。
働き方改革関連法案の内容
昨年来、「働き方改革」について法案検討や経済界・労働界での議論が活発化し、様々な実験や制度改善も進み始めています。しかし、その根拠となる労働基準法など関連法の成立にはまだまだ時間がかかりそうです。
今回は、現在の国会に提案されている法案の内容をご紹介します。
提案されている法案(4月6日提案)では、従来の法案に加え中小企業・小規模事業所への配慮が強化されています。以下、主な内容をみていきます。
Ⅰ 働き方改革の総合的かつ継続的な推進
働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定める。(雇用対策法改正)
II、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現
※2019年4月1日施行/中小企業は2020年4月1日、一部特例あり。
1 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)
・時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する。
(※)自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外がある。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外となる。
・月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。(2023年4月1日施行)
・使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならない。
→意外と知られていない改正案です。
・高度プロフェッショナル制度の創設等を行う。(高度プロフェッショナル制度における健康確保措置を強化)
〜職務の範囲が明確で一定年収以上(少なくとも1000万円以上)を有する労働者が高度な専門知識を活かした業務に従事する場合に、一定の要件を満たしたすことを条件として、労働時間・休日・深夜勤務割増の規定を適用除外とする。
→野党は長時間労働を促進する制度として反発しており、争点となっています。
・労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点から、労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならないこととする。(労働安全衛生法の改正)
2 勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
・事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない。
→長時間労働を抑えるための新しい考え方です。具体的な時間数については別途指針を作る方向です。
3 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)
・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業医・産業保健機能の強化を図る。
Ⅲ、雇用形態にかかわらない厚生な待遇の確保
※2020年4月1日施行/中小企業は2021年4月1日施行
1 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
・短時間・有期雇用労働者に関する正規雇用労働者との不合理な待遇の差を設けることを禁止する。
・個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる判断されるべき旨を明確化する。
・有期雇用労働者の均等待遇規定を整備する。
・派遣労働者について、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化する。
・これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備する。
2 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)
・短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化する。
3 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
・1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備する。
詳しくは厚生労働省のWebサイトをご覧ください。↓
厚労省、改革推進に重点
厚生労働省は関連法の成立を前提に、働き方改革を強力に推進したい考えです。今年度から都道府県労働局に「働き方改革推進支援センター」を設置し、体制を整えようとしています。また、全国社労士会、商工会議所、市町村行政相談センターや金融機関など各団体に協力を求め広報活動を展開していく方針です。
セミナー等も2600回、助成金も
事業者向けの働き方改革セミナーは、全国で約2600回開催を計画しています。労働保険事務の年度更新手続きの際に三六協定や就業規則に関する周知・相談体制をとるなど複合的に対応していく方針です。また、中小企業向・小規模事業者向け対策費として約2000億円を計上、時間外労働等改善助成金やキャリアアップ助成金などの助成金約960億円、IT導入助成金にも500億円を計上しています。
企業もこうした情報提供や助成金もうまく活用して、働き方改革と生産性向上が進んでいくとよいですね。
end